現代社会でますます必要とされている「キャリアデザイン」。
その大切さを把握していながらも、具体的な内容やメリット・デメリット、実践方法について理解できていない人事担当・人材育成担当者も多いのではないだろうか。
そこで今回はそうしたキャリアデザイン初心者を対象に、キャリアデザインとは何かを網羅的に解説する。本記事ひとつでキャリアデザインについて総合的に学べる内容となっているので、是非とも人事や研修の担当者は参考にしていただきたい。
キャリアデザインとは、働く人個々人が「どのようなキャリアを積みたいか」を主体的に考え、構築していくことを意味する。 また、会社や上司によって働き方・生きる道を選択されるのではなく、あくまでも自分自身が主体的・自律的に自分の人生全体を考え、キャリアを構築するという意味で使われる概念でもある。
“企業に勤めていたら安心”という時代はとうに過ぎ、現在は先行きの見えない不透明な時代だ。
そしてそのような時代では、自分の意志でどのようにキャリアを積んで行きたいのかをプランニングする必要がある。どの企業も成果主義を掲げる現代では、どこの企業に所属する身であっても自身の道を自分で照らすこと、つまりキャリアデザインに積極的に励むことが重要視されつつある。人事担当者に求められるのもまた、社員のキャリアとしっかり向き合い、また共にキャリアデザインを積極的に考えていくことだ。
キャリアデザインとよく混同される言葉として、「キャリアプラン」や「キャリアパス」が挙げられる。これらとキャリアデザインは、どう違うのか。「キャリアプラン」は、昇進・転職・起業など、労働者としてどう働いていくか、長期的に計画することだ。
対してキャリアデザインは仕事以外・退職後の人生全体をも包括する概念なため、より広義な言葉とされる。また「キャリアパス」は、企業側が従業員に提示する育成計画を指す。キャリアパスはあくまでも企業側が設定する計画であり、従業員側に主体性はない。こちらに対してキャリアデザインでは、むしろ個々人の主体性こそが重要視される。キャリアデザインは、それぞれひとりひとりの目線から考えるべき概念だ。
現代は、いわゆる「大企業志向」が終わりを告げ、フリーランスや非正規雇用など働き方の多様化が目立つ時代だ。
それは、社員が企業に身を任せっぱなしではいけないことを意味する。つまり、自身でキャリアをデザインする能力がなければ、この時代を満足に生き抜くことは難しい、ということだ。
ここからは、キャリアデザインの実際のやり方について説明していく。
キャリアデザインをするにあたり、まずは当人に「自分の人生で何をしたいのか」を明確化してもらう必要がある。仕事のみならず人生全体においての目標や理想を、できるだけはっきりと明確化させることで、具体的な今後のキャリアをデザインできるようになる。当人の中で既にやりたいことがある場合は、それを土台として、さらに深掘りして研ぎ澄ましていく。
反対に、まだ理想や希望が定まっていない従業員に対しては、当人の興味や関心、なんとなくのやりたいことを一緒に探りながら、一緒にキャリアをデザインしていくことが大切だ。
従業員は個人個人で異なるスキルや強みを持っているはずだ。育成担当としては、当人の目標や理想のためにそのスキルや強みをどう活用するのかを従業員自身に考えさせる必要がある。
また、逆に未だ足りていないスキルを見つけることもキャリアデザインには大切だ。強みと弱み、双方を適切に見つけることで、当人の人生全体のプランニングを促していく。
主体性に重きを置くキャリアデザインでは、当人自身が自分の性格・価値観を把握し、 どのような種類の仕事に適性があるのかを理解することが大切だ。しかし、自分自身の適性や性格、価値観をニュートラルに捉えるのは非常に難しいことだ。そこで、育成担当としても、従業者当人が適切に自己理解を進めることができているかどうかをアドバイスする必要がある。
中には、企業側の「こうした適性があるのでは」という提案に対して、従業員側があまり興味を示さない、というケースもあるだろう。そのような場合は、試しに簡易的な業務から就かせるなど、やりがいや適性に気づかせる配慮が必要となってくる。
キャリアデザインの最も重要なことは、それぞれが主体性を持って自身のキャリアを考えていくことだ。
企業側から必要以上に価値観を押し付けると、人生がその企業内に限られたものとなってしまい、昇給や昇進といった自社に関するものにデザインが留まってしまう可能性が否めない。そのため、企業側としては、デザインの主導権を握るようなことは決してしない、という立場をとることが重要となってくる。
ここからは、キャリアデザインをすることによって得られるメリットについて解説していく。
従業員が描いているキャリアデザインを企業が把握することで相互理解が深まり、早期離職の防止へとつなげることができる。
当人が描いているもの、目指しているものに対して、企業間とのギャップを埋める作業としても、キャリアデザインは有益なものであろう。
従業員それぞれが自身のキャリアをしっかりと見つめ、労働へのモチベーションを維持することで、組織強化も図れる。現代は、国内はもちろん、海外の企業とも競争が激化している時代だ。自分の企業の力を伸ばしていくためには、従業員のレベルアップ・キャリアアップが外せない。
各自の成長は企業への成長に直結してくるため、やはりキャリアデザインは惜しまず投資したい分野だ。
「人生100年時代」と言われて久しい昨今、定年を過ぎても働くことを望む人は増えている。こうした時代においても、現役世代の時期からこれからのキャリアを見つめることで、それぞれがより現代的な働き方の実現を達成することができるはずだ。
企業としても、従業員それぞれに強みを活かした働き方をしてもらいやすくなるため、キャリアデザインを実践することによるメリットはもちろん大きい。
反対に、キャリアデザインのデメリットは何があるのだろうか。
キャリアデザインを実践していく中で、現在所属している企業や業務内容が自分に合っていないと感じる従業員が現れる可能性がある。そうした場合は、結果として転職につながるケースがあるため、教育担当としては注意が必要だ。
転職のリスクを軽減するには、「自社の仕事に活かしてもらうため」というような、キャリアデザインの目的を伝えておくと良いだろう。あるいはあらかじめ選考の段階で、こうしたミスマッチが起こる可能性を少しでも防いでおきたいところだ。
それでは、ここからはキャリアデザインの具体例を見ていく。是非とも人事施策を考える上でのヒントとしていただきたい。
初めに紹介するのは「コーチング」だ。コーチングには大きく分けて2種類の方法がある。
1つ目は「コーチング研修を外部講師に委託する」という方法だ。プロの目線から、さらに適正テストや自己分析ツールを用いながらキャリアデザインを進められるため、よりフラットで正確な結果が出る場合が多い。
2つ目は「人材育成担当や上司がメンターとなって行う」という方法だ。こちらは普段から一緒に働いている気心知れた仲でキャリアデザインを行えるというメリットがある一方、メンター側の教育・学習も滞りなく行わなくてはいけない点には留意しなくてはならない。
すべての従業員を希望する部署に配属させることは難しいものの、できるだけ柔軟な人事制度を採用していくこともまた、キャリアデザインには大切だ。例えば「異動自己申告制」や「社内インターンシップ」、「フレックス勤務」や「転居を伴う異動なしの正社員制度」などがこれに類する。
また、定期的に各従業員の目標を管理する「目標管理制度」も、キャリアデザインを意識させる上では重要な項目だ。ただしその場合は、あくまでも重きを置くのは人生全体のキャリアデザインであって業務上の評価とならないように配慮するよう、心がける必要がある。
企業側と従業員との間で積極的にキャリア面談の場を設けることもまた、キャリアデザインには有益な手段である。企業側としても、従業員が現時点で持っているスキルや強み・弱み、仕事に対するモチベーションなどを相互理解できる場となるため、メリットは大きい。
企業と従業員のコミュニケーションという観点からも、キャリア面談は非常に有効である。
また、入社1年目、3年目など、定期的にキャリアデザイン研修を設けるという手法もある。
企業によっては、「5年目研修」「10年目研修」など、長期にわたって研修制度を設けているところも多い。あるいは、中堅の従業員や役職付きの従業員に向けてのキャリアデザイン研修もまた、非常に有効的な手段である。
キャリアデザインの形成は、目標数値の管理に留まらず、この先どう働いていきたいか、どう生きていきたいかという人生全般の問題に直結する。
従業員に活き活きと働いてもらうためにも、その結果企業としてより多くの利益を生むためにも、先行きの見えない現代だからこそ、キャリアデザインに注力しなくてはならない。
是非とも本記事を参考に、人材育成担当者として、上に挙げたさまざまな具体例を意識しつつ、従業員のキャリアデザインに積極的に携わってほしい。