今回紹介する「モラルハラスメント(モラハラ)」は、ハラスメントの一種だ。モラハラの特徴は被害が分かりづらい・被害を受けていることに気付くまで時間がかかってしまう部分にある。
モラハラが横行している職場では、社員たちの居心地が悪くなってしまう。そのため、早く対策をとらなければならない。
本記事では、モラハラについて解説しながら、対策方法や被害が起こった際の対処方法を紹介していく。
目次
モラルハラスメントとは、言動や行動などで相手を追い詰めるハラスメントのことだ。別名「精神的DV」とも呼ばれる。
被害者の中には自分の存在を否定したり、自信を持てなくなったりして、自己嫌悪に陥る場合がある。会社で働けなく被害者もいるため、会社として対策を講じた方がいい。
パワハラとは、立場が上であることを悪用して行われるハラスメントのことだ。「上司として理不尽な異動を命じる」「仕事のミスを理由に上司が部下に暴力をふるう」などが該当し、精神的暴力の他に肉体的暴力も含まれる。基本的に加害者は上司、被害者は部下という構図になっている。
一方モラハラの場合、立場に関係なく起こってしまうため、同期が加害者になることも珍しくない。さらに精神的暴力が中心であるため、パワハラとモラハラは別物だと言える。
ここからは、モラハラが職場にもたらす悪影響を紹介していく。
モラハラが横行する職場では、職場の居心地が悪く感じる。職場に不満を持つ人が増えるため、離職率の増加を招く。
離職率が増えると優秀な人材がいなくなったり、人手不足が起こったりして社内業務が回らなくなる。会社の生産性が落ちるため、業績悪化の原因になってしまう。
モラハラが横行する職場では、被害に遭いたくないという理由で、本音で意見を言えなくなるケースが多い。加害者の意見のみがまかり通る事態に陥るため、職場環境の悪化を招く。
モラハラ体質であることが外部へ広がると、企業のイメージダウンとなる。SNSや口コミなどで悪いうわさが広がると、消費者離れにつながる。最終的に売り上げダウンを招く。
モラハラを行う社員がいた場合、被害者から訴えられるかもしれない。すると企業としての法的責任が生じる。会社としてモラハラの被害状況を調査したり、裁判所へ行く機会が増えたりして手間が増える。そのためモラハラが起こると、会社にとって大きな負担となってしまう。
モラハラを行う人には、いくつかの特徴が見られる。ここでは、代表的な特徴を紹介していく。
相手に共感する力がない人は、相手の気持ちが分からない。自分の行動が相手へどのように映るか想像できないため、モラハラが生まれる。
自分に自信がない人は、それを隠そうとする。見栄を張ったり大胆な行動をとったりするうちに歯止めが利かなくなり、モラハラの加害者となってしまう。
自己主張が激しい人は相手の意見を聞かず、一方的に話す。モラハラに該当する発言か考えずに、思ったことを全て口に出す。その結果、行き過ぎた発言をしてしまい、モラハラに加担してしまう。自己主張が強いあまり、論破癖がある人もいるのではないだろうか。
参考:「論破する人」に嫌気がさしたら…【効果的な対処法のガイド】
モラハラを受けたことがある社員の中には、自身がされた行為を相手にしても許されると勘違いする人がいる。アウトであると分かっていても、部下にも自身と同じ目に遭わせたいという気持ちが勝ってしまう。それがモラハラへつながる。
ひと口にモラルハラスメントと言っても、さまざまな実例がある。ここでは、代表的な実例を紹介していく。
相手が話しかけてきたのに無視する行為は、モラハラに該当する。たとえ苦手なタイプの社員だとしても、無視してはいけない。
「休日も仕事のことを考えないとダメだよ」「家の片付けをしないと社会人として失格だ」など、プライベートへの過度な干渉もモラハラに該当する。仕事以外の話はしない方がいいだろう。
社員に対して陰口をたたいたり、誹謗中傷を浴びせたりするのもモラハラだ。相手をけなしてはいけない。本人がいない場所での陰口や誹謗中傷もNGだ。
モラハラを予防するには、効果的な対策をとることが重要だ。ここでは、モラハラの対策として活用できるものを紹介する。
会社としてモラハラ加害者への罰則を提示すると、ペナルティを受けないための行動をとる社員が増える。モラハラを行う社員が減るため、対策として役立つ。ちなみに罰則の提示では、以下のことに気を付けるといい。
基準が曖昧な罰則は、不公平感を生む原因となる。基準が曖昧だと、同じ内容の被害でも罰則の重さが変わってしまう。その結果、社内に不満の声が多くなる。
モラハラの内容が同じであれば、罰則の内容も統一しないと公平性に欠けてしまう。モラハラをしても軽く済むと勘違いする従業員も現れるかもしれない。社内の秩序を守るためにも、基準が曖昧な罰則を設定すべきではない。
加害者にダメージがないペナルティを設定しても意味がない。なぜならモラハラを繰り返す恐れがあるからだ。社員が受けたくないと感じるペナルティを設定することが、モラハラの抑止へとつながる。
ひと口にモラハラと言っても、さまざまなタイプのものがある。被害が大きいケースもあれば、軽微なものも存在する。またモラハラが起こった背景によっても、課すべき罰則の重さは違う。モラハラの状況に合わせてペナルティを使い分けるためにも、さまざまな種類の罰則を用意した方がいい。
継続的にハラスメント研修を実施する理由は、社員にモラハラの重要性を植え付けるためだ。
研修を1度行っただけで、モラハラの重要性は身につかない。なぜなら時間の経過とともに、教わった内容を忘れるからだ。繰り返し受講させないと、知識は定着しない。したがって、継続的にハラスメント研修を行った方がいい。また、社内の傾向としてパワーハラスメントの対策も必要な場合は、パワハラ研修も同時に実施すると良いだろう。
なお、ハラスメント研修を実施する際には、以下のことを意識するといいだろう。
受講者によって研修の内容を変える理由は、立場によって求められるものが違うからだ。仮に全社員を対象とする研修であれば、モラハラを行わないための研修のみでいいかもしれない。
しかし管理職など部下を持つ社員がメインの場合は、部下がモラハラをしないための指導方法なども必要となる。そのため、受講者によって研修内容を変えることが求められる。
ハラスメントに関する専門用語を盛り込むだけの研修で、参加者に理解させるのは難しい。言葉をかみ砕いたり例題を挙げたりなど、参加者目線で説明しないと参加者は理解しない。モラハラに関する知識が全くない参加者もいる。受講者全員に理解してもらう意味でも、参加者目線に立って研修を実施した方が良い。
相談窓口を設ければ、モラハラの被害に遭いそうなときに相談できる。したがって、モラハラの対策に役立つ。ちなみに相談窓口を運用するときは、以下のことを心掛けると良い。
口外しない体制をつくる理由は、相談者のプライバシーを守るためだ。モラハラに関する相談は深刻な悩みで、誰にも話してほしくないと感じる人が多い。
情報を口外されると相談者は裏切られた気持ちとなり、気軽に相談できなくなる。それが社内に広まると、モラハラで困っている社員が相談しなくなってしまう。モラハラの横行を防ぐ意味でも、口外しない体制をつくるのは必要だ。
社員のみでは対応できない場合もある。そのときは専門家につなぐことが求められる。提携の専門医やカウンセラーがいれば、社内で解決できなかったトラブルが、解決できるかもしれない。
対策をとっても、モラハラが発生する場合もある。最後に被害が発生したときに、とるべき行動を紹介する。
加害者や被害者が、うそを言っている場合がある。正確な状況を把握するためにも、事実確認は行うべきだ。ちなみに事実確認の際は、以下のことに気を付けるといい。
事実確認のときは、中立的な立場で行うことが大切だ。「被害者だから絶対に本当のことを言っている」「〇〇さんは評判が良いから加害者であるわけがない」と決めつけると、固定観念に捉われた調査となって正しい結果が出なくなる。たとえ仲の良い社員を調査することになっても、優遇してはいけない。
事実確認のときは、話を聴くことに徹するのも大事だ。聞き手になることで、相手からさまざまな情報を聞き出せるからだ。情報量が増えれば矛盾点を見つけやすくなるため、事実確認が楽になる。
被害者と加害者の両者が、自分にとって都合の悪いことを隠しているかもしれない。すると、事実確認が難航してしまう。そのときに役立つのが、第三者からの情報だ。
第三者に聞き取り調査を行えば、今まで出てこなかった情報を獲得できるかもしれない。そのため、事実確認が楽になる。
加害者への処置を講ずるのも必要だ。たとえ仕事で成果を挙げている社員であっても、野放しにしてはいけない。放置するとモラハラの被害を増やすことになるからだ。モラハラの被害を一刻も早く抑えるためにも、迅速に加害者への処置を講じるべきだ。
被害者をフォローする理由は、心のケアをして社員の精神状態を良くするためだ。「再び上司からパワハラの被害に遭うのではないか」と、おびえる被害者もいる。その気持ちを失くす意味でも必要だ。
被害者は自分の支えとなる人がいないと不安になる。したがって、被害者のフォローを忘れてはいけない。
モラハラが起こっている職場では、社員の居心地が悪くなったり、退職者が増えたりする恐れがある。すると優秀な人材がいなくなり、会社に損失を与えてしまう。
それを防ぐ意味でも、モラハラが起こらない職場づくりは行った方がいい。ちなみにモラハラの加害者となる人には、以下の特徴がある。
上記に当てはまる社員の場合、モラハラの加害者になる場合があるため注意が必要だ。その他にモラハラを防ぐ対策もあるため紹介する。
これらの取り組みを行えば、モラハラによる被害者を減らせるはずだ。ただし、対策を講じても残念ながらモラハラの被害が起こる場合もある。そのときは当事者の事実確認を行い、加害者への処置を講じたり、被害者へのフォローを行ったりすると良い。社員が働き続けたいと思う職場をつくるためにも、モラハラの予防に力を入れていただけると幸いだ。