他社との差別化が困難な現在において、競争優位性を確保している企業がおこなっているインナーブランディング。言葉は聞いたことがあっても、そもそもインナーブランディングとは何か、また外部に対するブランディングとの違いは何かを理解している人は多くないだろう。
そこで、今回はインナーブランディングについての概要や、実施方法について解説する。
目次
インナーブランディングとは、自社の従業員に向けたブランディング活動のことを指す。インナーブランディングは、会社の理念を従業員に理解してもらい、具体的なアクションを起こし、新たな習慣を作っていくことだ。逆にアウターブランディング(エクスターナルブランディング)は顧客に会社のことを知ってもらうための啓蒙活動となる。
もちろん、自社のことを社員が知ることは大事というのは理解できるはずだ。しかし企業が社員に知ってもらうべき目的内容は、掘り下げると以下に集約される。
・企業ブランドの理念を知ってもらう
・企業が進もうとしているビジョンを共有する
・企業の価値を共有する
上記は社員として知っておくことで顧客へのアプローチ、最終的には会社の利益にもつながっていくためにインナーブランディングの必要性がある。
エクスターナルブランディングという言葉がある。これは先に述べたアウターブランディングと同じ意味を持つ。まず大きくは社内へのブランディングと顧客へのブランディングとしての目的の違いがある。インナーブランディングの主な目的は、「社員に企業の理念や価値の共有をしてもらう」ということだ。
それと比較して、エクスターナルブランディングの最終的な目的は「自社の製品やサービスを顧客に購入してもらう」ことにあり、顧客や消費者と価値観を共有するだけではないことを覚えておきたい。さらに対象者の違いも明確だ。対内的、対外的に発信をしていくという点でも異なることがわかる。使用する媒体の違いもあるだろう。エクスターナルブランディングは、対象者が不特定多数の人々であることからも、SNSなど様々な手段が活用できるが、インナーブランディングは社内のため、研修やイントラなどごく内々の媒体に限られるはずだ。
インナーブランディングのメリットはどのようなものかを見ていこう。まず知らないよりも、知っているほうがプラスに働くことが多いのは当然のこと。それが社員にとっても企業にとってもいいこととして還元される。
長年働いている社員でも企業ブランドや自社製品について知らないということもある。企業のコンセプトを覚えてもらうことになるインナーブランディングは多いに役立つ。
また企業の内容を知ることでやる気がでるため、仕事に真剣に取り組む従業員が増える。したがって離職率の低下にも一役買うのがインナーブランディングだ。社内の士気を高めるためにも、インナーブランディングは役に立つ。
社員と顧客満足度の向上にもインナーブランディングはつながる。社員の中でも会社に不平不満を持つ人はいるはず。しかし、インナーブランディングを行うと、社員の不満が減って満足度向上が上がることもある。従業員満足度の上昇で、仕事のモチベーションアップに結び付く。
また社員がやる気になれば社外の企業の評判アップにも貢献する。社員が企業ブランドを顧客などに話せば、社外での企業イメージや満足度も上がるだろう。
企業・ブランド理解の促進が進むと生産性や業務の効率化につながる。所属している企業ブランドの理解は、入社したばかりの社員などに浸透させる必要もある。企業のブランドやコンセプトを理解しながら業務を進めれば、さまざまな効率化が図れる。
インナーブランディングは大きく会社の理念に基づいて2段階に分けて実施される。理念の中でも「ミッション」と「スタイル」を策定する。そのフェーズを見ていこう。ミッションは会社が目指す方向性を指し、会社が何のために存在するのかということを共有する。また、スタイルとは社員に求める思考・行動を意味する。
ミッション実現に向けて策定フェーズを実施する。【策定フェーズ】のポイントは次の通り。
他社との違いを明確にして、顧客ニーズを満たす。また、ミッション策定においては時間軸を入れて顧客価値を明確にし、スタイル策定においては顧客価値を届けるための行動を整理していく。
日々の業務が何に繋がっているのかを、従業員の特性にあわせて働きがいにつながる意義を整理する。
会社の理念の意図や、背景を伝えることで、現場の共感を得られる。
策定したものを社員に落とし込むフェーズである。共有⇒行動⇒習慣化することを目的とする。
社員全員が当事者として理念の実現に向けて、意欲が高まっている環境を整える。
ミッション・スタイルの意図や判断基準までの行動が変革できていることを確認する。
インナーブランディングの施策には様々なものがある。具体的な施策を見ていこう。
社員の目につく場所に会社のスローガンや目標などを掲示する。必要であれば社内に社内の推進プロモーション担当を置く。毎月張り替えたり、その月の目標やスタンプラリー形式にするなどの工夫をしている企業もある。
企業ブランドをまとめた本・動画制作を行う。社員が愛着を持って仕事をする、少しでも誇りをもって仕事をするようになるための小道具として使える。
またインナーブランディング専用の動画を作る会社やプロモーションを得意とする専門業者もいるので人数や多忙具合によっては予算次第で活用するとよい。社員用にノベルティやIDカード入れなどの統一性を持たせるデザインの工夫なども見られる。
企業情報を盛り込んだ社員向けサイトの制作なども欠かせない。適宜情報の更新を行うことで社内イベントや社員交流、福利厚生などにも役立つ情報を共有できる。社員が少しでも働きやすい会社と感じるように工夫する。社員が興味関心を持ちたくなる内容をアンケートすることもよい。
社員へのアンケートを様々に適宜実施し、現状把握に努める。インナーブランディングを実施した側では良いと思っても、社員側からするといまいちな場合もある。アンケートを実施するときは下記のことを意識する。
業務多忙な中で見るため、質問内容を5〜10個程度にして、「2、3分」程度で回答が完了するものにする。またアンケートを頻繁にしない、必要な時にだけ行う、行う目的を理解してもらうこと。
回答者が答えやすい質問内容にする。クリックすればすぐに答えられる選択肢にするなど記述ばかりにしないように心がける。短時間で答えられないようなアンケート形式だと、答えること自体が面倒になることもある。
社員同士が考えを出し合うワークショップやファミリーデイは会社への親近感をもたらす。ワークショップとは、主に参加者同士で考えを出し合ったり体験したりする場であり、ファミリーデイは社員の家族を招いて会社でレクリエーションや会社の製品などを知ってもらう機会を設けるものになる。
インナーブランディングの実施ポイントを確認しておく。インナーブランディングを効果的なものにするには、いくつかのポイントがある。
インナーブランディングが効果があったのか数値化する。結果やアンケートからそのインナーブランディングが正しいものかどうかを検証する。
従業員に強要しすぎないこと。社員自らが、興味・関心を持ってくれる企画を作るように工夫すること。強制して冊子を読ませたり、関心がないものを無理強いするのはNGだ。
インナーブランディングの方法によっては、短期間で効果は出ないものも多い。長期的スパンで計画を立てよう。早く効果を出したいとばかりに間違った計画をしないこと。
ここからは、インナーブランディングを行っている企業の事例を見ていこう。いろいろな企業が様々な工夫をしているが、離職率が低い企業や社員満足度が高い企業ほど、インナーブランディングに力を入れていることがわかる。
出典:スターバックス コーヒー ジャパン: Starbucks Coffee Japan
インナーブランディングで重視するのは職場環境の最適化を目的として組まれたプロジェクトである。従業員はレジやドリンク係など、いろいろな業務を行わせるローテーション制とし、シフトメンバーも毎回同じにならないように、新鮮さを取り入れる工夫をしている。
店内の商品ディスプレイは店舗従業員のアイデアを基に作られる。店舗に貢献していることを社員に実感させる目的で行っている。また店舗ごとにPOPやサービスの工夫も行わせていることから場所柄や土地柄に合わせて顧客を楽しませる工夫も社員中心のアイディアを取り入れさせているとのこと。
出典: 株式会社オリエンタルランド
東京ディズニーリゾートを運営しているオリエンタルランドではサンクスデーとして閉園後の東京ディズニーリゾートを貸し切り状態にして、働いているキャスト(主に準社員・非正規社員など)を招待する企画を行っている。
サンクスデーではオリエンタルランドの役員・社員が、キャストをもてなす。愛着を持ってもらうのはもちろんのこと、企業ブランドを再確認することを目的とする。記念品をプレゼントしたり、社長が直接メッセージを届けるセレモニーの開催、手作りのデコレーションなどもある。Disneyそのものが好きという人が多い中、社員もオリエンタルランドで勤務することに誇りを持っているというアンケート結果も出ている。
出典:ANAグループ行動指針「ANA’s Way」
ANAホールディングス株式会社では、グループ行動指針を策定している。「あんしん、あったか、あかるく元気!」をもとにANA社員の「らしさ」や誇りを認識するための目的もある。社内外のイベント、納会、表彰制度、社内報、ポスター。ニュアル動画、研修教材、Web社内掲示板、サンクスカード、社内ポイントなどが策定される。
お客様からの声はデータベースに一元管理されており、お客様視点を元にすることで、従業員の日々の行動や意識と並行してインナーブランディングの浸透を確認している。お客様の声をもとに改善された業務は毎月公開している。社員の向上心がお客様への対応につながる、サービスにつながるということで継続され続けるインナーブランディングが多く存在する。
診断ツールで、社員調査をすると「従業員が理念を期待していない(=従業員が理念を重要視していない)」という結果が出たためインナーブランディングを実施。定期的なE-ラーニングなどで会社に対する意識が高まり、生産性が上がった。
また理念を浸透させることで、各作業場の意識も変わってきたという。今後は定期的な研修やセミナーも手短に行えるウェブ上で行う予定とのこと。
具体的なステップとしてインナーブランディングの目的をまずは統一する。
1)社内の現状・課題把握
2)ブランド戦略の策定
3)目標設定
社内施策や制度の取り組みはPDCAが重要となるので
課題に合わせた様々な社内施策をミックスしながら、その現状把握ときちんと目的に沿っているかも検討しながら長期目線で進めるものがインナーブランディングとなる。
最終的に成功すれば、目的に沿った社員が長く働ける満足度の高い会社となることができる。