会社のブランディングは常に重要だ。それは社外に対してだけではなく、社内に対しても。社員が価値観を共有し、それを外部にも発信することではじめて企業としてのブランド力、ひいては強さを構築できる。「インナーブランディング」はそれらを実現するための取り組みだ。
インナーブランディングをうまく行えば、会社に良いイメージを持ってくれる社員も増え、雇用状況にもよい変化が生まれる。しかし、やり方を間違えると会社の評判は下がる。社員に良いイメージを持ってもらうのであれば、正しい方法を知らなければならない。そこで今回はインナーブランディングの概要を解説しながら、5つのステップについて紹介する。
目次
インナーブランディングとは、社員(社内)向けに行うブランディングのことだ。会社の価値観への共感や、会社へ対して好意的な気持ちを持ってもらうために行う。社員が会社に良い印象を持てば、会社が求める動きをしてくれる可能性がある。よって、企業が描いている理想の形を実現させるために、必要な取り組みだと言える。
インナーブランディングを実施する目的は、以下の通りだ。
企業ブランドの価値を上げるのが最終的な目的だ。会社の価値観に共感し、良い印象を持つ社員が増えれば、結果的に企業ブランドは社外に対しても上がっていく。
自社の社員であることを誇りに思ってもらうことを目的としている。自社で働いていることに誇りを持てば、同じ場所で働き続けたいと思ってくれる可能性も高くなる。
企業が掲げている理念に沿って、動いてくれるように社員に促す効果もある。会社が掲げている将来像と違う方向へ動く社員が多いと、団結力が生まれにくい。するとチームの連携力が落ちて、会社の目標を実現させるのが難しくなる。
社員にとっても、会社にとっても良い状態へ持っていけるようにするのも、インナーブランディングの役目だ。
インナーブランディングのメリットは、以下の通りだ。
上記でも述べたとおり、全社一丸となって行う行動であるため、コンセプトが社内に浸透する。これはとても価値が高いことだ。
インナーブランディングは、社員の満足度を上げる効果も期待できる。チームメンバーの満足度が上がれば職場の士気を高めることになって、生産性向上につながる。チームの成果を挙げる意味でも大事だ。
インナーブランディングによって共通の目標ができれば、社員同士の連携感を生み出すことになる。連携感が生まれると社員間で仕事をサポートし合う体制ができて、チームでの業務を進めやすくなる。チームプレーの質を上げるのにも役立つだろう。
インナーブランディングは、いくつかのステップを経て行われる。ここでは実施するときの5ステップを紹介する。
企業が掲げている理念やコンセプトの確認からスタートする。企業理念を根本としない限り、インナーブランディングは成功しない。どのような理念を持っているか、それは正しいのかを確認する。自分が経営陣の一員でなければ、ずれがないのかを経営陣とよくよく話し合うことだ。
確認した内容をもとに、自社の社員に求められる行動を定義する。すでにあれば再度確認する。たとえば「速度を重視する」「逆算思考」など、自社の人材に求める価値観を明確化する。それらを元に社員に対して会社ブランドを発信していく。
価値観を定義したら、社員に広めていくための手法を考えて行動に移す。下でまとめている。
インナーブランディングを実施したら、どのくらいの効果があったか計測する。数値化して、一目で結果が分かるようにしておくことが重要だ。異動してきた方が過去のデータを見る場合もあるため、結果をイメージできるよう可視化した方が良い。
インナーブランディングは1度行っただけで、十分な効果を発揮させるのは難しい。完成形を目指すには、振り返りを行って改善することが大事だ。反省点を書き出して、それを解消するための動きをすれば、インナーブランディングの質も良くなっていくだろう。
インナーブランディングの手法は大きく2パターンに分かれる。両方ともに実施するのが基本だ。
内容が決まった後に、大々的に実施する。該当する手法は以下の通りだ。
まず定義がなされていなかったら、それらの発表を行うことだ。これを全社員一丸となって実現していく。こういう会社でありたい、というのを明確にする。
初期(基本)の研修を実施する手法もある。会社の理念を理解するためのカリキュラムや、社員としてのルールを身につけるためのカリキュラムなどが該当する。会社と参加者の認識を合わせるのに活用される。
インナーブランディングを高めるためのワークショップだ。社員同士で会社の状況を良くする取り組みを行ったり、共通のプロジェクトを進めたりなど様々な種類がある。社員の現状に合わせて、どのような内容を行うか決めるといいだろう。
定期的に行って、継続的に効果を得ていく手法が⓶の特徴だ。
社内報とは、会社の情報や社員の声などを載せた広報誌のことだ。社員のライフスタイルを充実させる情報など社員に役立つ情報を載せておけば、読んでもらえる広報誌になるかもしれない。
会社情報を盛り込んだWebサイトやポスターを制作する手法もある。Webサイトに至っては、社内ポータルとして利用する会社も存在する。社内のスケジュールを見たりイベントの予約を行ったりなど、会社によって機能は異なる。さらに社員が閲覧しやすいような形式にすることも大事だ。
一方ポスターに至っては、貼る枚数が多かったり掲載されているキャラクターが不人気だったりすると、社員のモチベーションが下がる。よって、社員に悪い印象を持たれないポスターを制作することが大事だ。
会社の理念が載ったハンドブックを制作する方法もある。ポケットに入る大きさにしておけば、好きなときに自社の理念を確認できる。自分の行動に迷ったり、顧客への対応方法が分からなくなったりなど様々な場面で閲覧可能だ。社員としての自覚を持ってもらうのにも良いだろう。
インナーブランディングを行うポイントは以下の通りだ。
インナーブランディングは、社員に対して会社の価値観を強引に植え付ける方法ではない。会社が行っている取り組みに対して、社員達から受け入れてもらわなければいけない。強要するとインナーブランディングに対して、否定的な社員を増やす恐れがある。
しかし強要せずに任せっぱなしだと、それはそれで意味がない。共感してもらうために、何度も何度も繰り返し、価値を提示する必要がある。
短期で成果を出すことは不可能に近い。中長期的に結果を出していくことを心掛けて計画すべきだ。半年~1年程度のスケジュールがいいだろう。
なお計画の際は、社員が頑張れば達成できそうなものにすべきだ。難易度を高くしすぎると、社員のやる気がなくなり、インナーブランディングの成果を出すのが難しくなる。社員のレベル感に合わせて内容を変えることが大切だ。
会社が進んでいく道と同じ方向へ動いてもらいたいのであれば、会社の将来像を社員に分かりやすく伝えた方がいい。怠ると違う方向へ進んでしまうためだ。社員の方向性がバラバラだとメンバーの管理に手間がかかってしまう。さらにチームの一体感がなくなり、成果を挙げるのが厳しくなる。チームのまとまりを出すためにも、会社の将来像は分かりやすく伝えるべきだ。
インナーブランディングは、様々な企業で実施されている。最後に事例を3つ紹介する。
スターバックスジャパンでは、社内で設定された行動規範をもとに、自分で考えて動くスタイルになっている。社員1人につき年間約80時間の研修を行っているものの、接客サービスに関するマニュアルは存在しない。それはスターバックスが、従業員の自主性を大事にしているためだ。
自社ではお客様へ対するホスピタリティを向上させるために、各従業員の采配で接客させている。それによって従業員は自分の個性を出しやすく、様々なことにトライできる。それが従業員の満足度アップにつながっているのだ。
東京ディズニーリゾートを展開しているオリエンタルランドは、従業員がモチベーションを維持させるための仕組みが設けられている。自社でもスターバックスと同じく、接客マニュアルは存在しない。接客のテクニックではなく、お客様を喜ばせることに力を入れているためだ。
また従業員向けの制度がたくさんあるのも特徴だ。たとえば「ファイブスタープログラム」では、素晴らしい働きをした従業員に記念品が贈られる。また「スピリットオブ東京ディズニーリゾート」では、行動が素晴らしいと思った従業員にメッセージを渡し、多くのメッセージをもらった方の中から受賞者を決めている。このように制度を充実させることで、従業員がイキイキと働ける環境にしているのだ。
日本航空では「JALブランドセミナー」を実施し、社員が誇りを持って働ける仕組みを完備している。これは2011年9月から始まったセミナーで、JALを良くするためのセミナーとなっている。
会社として成長させ続けるために必要な行動や、お客様を接客するときに心掛けるべき内容など参加者間で意見を出しあうことで、各社員にできることを考えていく。セミナーの終盤に流される動画では、涙を流す参加者もいるようだ。
インナーブランディングは、社員に今の会社で働き続けたいと思ってもらったり、業務の生産性アップを実現させたりする上で大事だ。さらに社員のモチベーションアップも期待できるため、会社として取り組むべきだ。なおインナーブランディングを実施するときは、以下のステップに沿って行うといい。
事前準備と振り返りの時間を確保し、何度も改善することが大事だ。しかし手順の通りに実行するだけでは、高い成果を出すのは厳しい。ポイントを抑えることが大事になる。
会社の都合のみではなく、社員の都合を考えて実施することが高い成果を挙げるコツだ。社員の都合を考えないと、社員の満足度が減ってしまい、優秀な人材が流出してしまう。会社を成長させ続けるためにも、社員を大事にすべきだ。
ただしインナーブランディングの最適な手法は、職場の状況によって異なる。効果の出そうな手法を定めて、効率的に進めていただけると幸いだ。