人材育成において近年重要視されている概念として「内発的動機付け」という言葉がある。
この動機付けにより社員の長期的なモチベーションアップに繋がることから、積極的に啓蒙を行っている企業も多い。
しかし社員それぞれの内発的動機付けを育むには、まずは人事担当者がしっかりとその概念を理解している必要があるだろう。
そこで今回は、「内発的動機付けとは何か」というテーマに着眼し、内発的動機付けの概要や内発的動機付けが重要視されている理由、またメリットやデメリット、内発的動機付けを高める方法までを一挙に解説する。
本記事を読めば内発的動機付けについて一通り理解できる構成となっているので、是非ともご一読いただき人材育成の参考にしていただきたい。
はじめに、内発的動機付けの概要や定義を整理していく。
対になる概念として挙げられる「外発的動機付け」も合わせて紹介していくので、両者の違いにも注目しながら理解を深めていただきたい。
内発的動機付けとは、人が自らの意志によって行動することを促す心理的な要因のことである。
企業においては、自己の興味や価値観に基づいて、自分自身から動機を促すことが重要視されている。
この概念の中心となっているのは「自分自身の内側からやる気を引き出すこと」で、モチベーションの根本が自己決定的であり、自己効力感や成長、発展を促進することができるのが特徴だ。
内発的動機付けは、「興味・関心」「成長・発展」「所属・帰属」という要因から成り立つ。
強い興味・関心やもっと知りたいという探究心、仕事自体のやりがいや面白さ、「もっとやりたい、挑戦したい」という意欲、自分の会社に所属することそのものの価値などが内発的動機付けの例として挙げられるだろう。
内発的動機付けと対になる概念として「外発的動機付け」というものも存在する。
外発的動機付けは、興味ややりがいといった自身の内側に仕事への価値を見出す内発的動機付けとは対照的に、報酬や名誉、評価など、外的なもので仕事を動機付けするという考え方だ。
金銭的な報酬が一番の例として挙げられるが、その他にも表彰や昇格、社内評価や社会の中での立場、また感謝などの精神的な報酬も外発的動機付けのひとつである。
外発的動機付けは、動機となる外部からの報酬がわかりやすく、また外部から与えることができるために動機付けしやすいという特徴がある。
また、即効性も高く、マネジメントには非常に有効な手段のひとつとして考えられている。
しかし、社員にとっては受動的な動機付けとなり、報酬への慣れや耐性が生じることなども想定されることから、近年では社員個々人の中に仕事の内的な価値を見出してもらう内発的動機付けを啓蒙することにシフトしている会社も多い。
続いて、「なぜ内発的動機付けが重要なのか」について解説していく。
今日の社会システムを見ていくと、キャリア開発は変化の局面を迎えているといえる。働く一人ひとりの価値観や仕事観はますます多様化し、組織の人材マネジメントもそれに伴って変革が求められている。
そうした中で重要視されているのが、まさに内発的動機付けだ。価値観の変化が激しい現代において、内発的動機付けは以下の点において、社員が継続して主体的に働くことを援助する。
動機付けによって社員の仕事に対する動機が確立され、行動スピードが早まるようになる。特に内発的動機付けは、社員自らが「やりたいから仕事に取り掛かる」という状態を作れるため、モチベーションが維持されやすく、長期間にわたって行動スピードが速い状態が継続されることも多い。
また、行動スピードが早まることに伴って、行動量の増加も期待できる。内発的動機付けでは、給料や福利厚生ではなく、仕事自体に興味・関心が働いている状態となるため、自然と社員の行動量は増えていく。
仕事への興味ややりがいを強く持っていることによって、仕事に取り組む際の集中力も増していく。仕事に自らのやりがいを抱くことで、仕事に集中して一生懸命に取り組むことが想定されるだろう。
さらに、集中力の増加に伴って、仕事の質が高まることも想定される。自分の担当外の領域にも興味を持ったり、ミスがあった際にも再発防止のためのアイデアを自ら導き出したりするなど、活動的で創造的に仕事を捉えるケースも多い。
仕事への興味・関心や探究心が深まることによって、意欲的になったりチャレンジ精神が生まれたりすることも多い。
新たなプロジェクトに対しても意欲的に挑戦できたり、業務に関連するスキルや資格の取得にも積極的に取り組んだりするなど、仕事に対して能動的に行動できるようになる。
内発的動機付けには、特有のメリットが多数存在する。ここからは、内発的動機付けのメリットについて解説していく。
はじめに、内発的動機付けは個々人の内的な部分から啓蒙していくため、長期的に動機を維持できるというメリットがある。外発的動機付けは金銭的・精神的な報酬を与えるのを辞めたり、あるいは昇給率などを低く設定したりすると、報酬に依存していたモチベーションは止まってしまう。
その一方、内発的動機付けの場合、目的や自己決定感、自己効力感が保たれている限り、外部から報酬を与えなくても、長期的にモチベーションが維持しやすいと言える。
また、内発的動機付けには際限がない。どうしても報酬額などに際限が生じてしまう外発的動機付けに対し、内発的動機付けはどこまでも自分自身の内面を啓蒙できる。
「仕事の報酬は自分自身の成長や学び」という状態を作れる内発的動機付けは、報酬など外的なものに依存することなく、自身の内面からモチベーションが湧き出てくる状態を築き上げられる。
そうした内的な欲求や意志には際限がなく、会社や上司が何かを与えなくても、自己推進的に仕事に取り組んでくれることは会社から見ると大きなメリットとなるだろう。
さらに、内発的動機付けにはコストがかからない点も見逃せないメリットだ。外発的動機付けには報酬や賞与といったインセンティブが必要だが、内発的動機付けは社員の内面に起因する動機であるため、コストはかからない。
内発的動機付けに関する考えられうるデメリットも押さえておく。
はじめに、内発的動機付けは外部からのコントロールが難しいという点が挙げられる。外発的動機付けは報酬や昇格など、わかりやすく外から働く動機を与えることができるが、内発的動機付けは直接的な操作ができない。
そのため、特に教育最初期のマネジメントや研修では、「いかにして自分自身で自分の内面を開発してもらうか」という観点から啓蒙を促すことが重要となる。
内発的動機付けは、長期的に育まれることがほとんどである概念である。そのため、即効性は低くなる。
外発的動機付けの場合は、インセンティブやキャンペーンとして短期的にモチベーションを生み出すことが可能であるが、動機の根拠を内側に求めている内発的動機付けではそうした操作が非常に難しい。
最後に、内発的動機付けは標準化が難しいという点もある。内発的な動機は社員本人の内側から湧き出るものであり、個々人の価値観や特性に大きく左右されるものだ。
そのため、ある社員で成功した事例や考え方を、そのまま他の社員に流用することはできない。制度化、仕組み化という観点から見ると、標準化が非常に難しい概念であろう。
通常、内発的動機付けはミッションやビジョンの浸透や考え方の研修、1on1ミーティングなどによって中長期的に働きかけを図る。大切なのは社員個々人としっかり向き合うことであり、全体的な教育のみで内発的な動機の育成を促すような場合では失敗に終わってしまうことも多い。
それでは最後に、内発的動機付けを高めるにはどうすれば良いのかについて解説する。
内発的動機付けを身に付けるには、自己決定感を高めることが欠かせない。自己決定感の促進、つまり社員自身が自分の人生やキャリアについての意思決定を行い、自分自身が主体的に行動することは、より濃い内発的動機付けが生まれる要因となる。
自己決定感を高めるための方法としては、社員にできるだけ多くの権限を移譲することや、ボトムアップ(意見収集)型のマネジメントを行うこと、存在承認や感謝の声がけを積極的に心がけることなどが挙げられる。
また、社員自身が選んだことに対して、自己責任を持たせることも重要だ。近年注目度が高まっている「エンパワーメント(権限を与えること)」の概念に着目することも、モチベーション向上に役立つだろう。
内発的動機付けを高めるためには、自分が何をしたいのか、何が大切なのかを明確にした上で、そうした興味や関心に合わせた行動を選択することが大切だ。社員自身が自分のやりたいことについて深く考え、その目的や意義を明確にすることで、内発的動機付けは生まれやすくなる。
そのため、会社としては、まずは「社員自身に自分の興味や関心について自己分析をしてもらうこと」と、「社員それぞれの興味や関心に合わせた業務内容やキャリア形成の場をできる限り用意すること」が大切となってくる。
場合によっては異動や配属先の変更なども検討する必要が出てくるだろうが、より長期的に、かつ主体性を持って社員に働いてもらうことは会社の利益にも直結してくるため、可能な限り前向きに考えたいところだ。
目標の設定は、内発的動機付けに必要な自己効力感を高める。自己効力感とは、自分自身が目標達成に向けて行動する能力や自信のことで、内発的動機付けの作成にあたって重要な概念となる。
社員自身が、自分が何かを達成した時に感じる達成感や自己効力感を意識して、自分の能力や資質に自信を持てるように、会社の取り組みとして社員に目標を設定させる教育制度などを設けることも有益だろう。
なお、会社から目標を設定するように課題を出す際には、決して「やらされ仕事」にしてはならない。内発的動機付けはあくまでも社員の内的な動機を反映させたものでなくてはならず、会社という外部から提示されたタスクとして目標設定を捉えてしまっては健全な動機付けがなされない可能性があるからだ。
内発的動機付けは、あくまで社員の自己分析やキャリア形成の一環として、自分ごとに捉えてもらった上で目標の設定に取り組ませる必要がある。
内発的動機付けを高めるためには、成長と学習の機会を提供することが重要である。新しいスキルや知識を身につけ、自分自身が成長していくことで、仕事に対する内発的動機付けも獲得しやすくなるからだ。
モチベーションアップ研修などの受講も、新たな学びに繋がるだろう。
なお、会社としては、社員自身が学びたいことに対して自由に取り組める環境を整えることが大切となってくる。社内制度だけでなく、周囲の環境や挑戦をよしとする社風などを整備することで、総合的に会社全体として成長や学びを支援する空気づくりが大切だ。
近年の人材育成において重要視される「内発的動機付け」は、社員が主体性や高いモチベーションとパフォーマンスを持って働いてもらうための、非常に重要な概念である。
社員自身が自分の内側に仕事の動機を持つことを目指す内発的動機付けは、報酬や昇進といった外発的動機付けに比べてより強固なモチベーションとなりうる。
なお、内発的動機付けが重要視される理由としては、
・行動スピードが早まる
・行動量が増える
・集中力が増す
・仕事の質が高まる
・意欲的になる・チャレンジ精神が生まれる
点が挙げられる。
また、メリットとしては、
・長期的に維持できる
・際限がない
・コストがかからない
ことが、デメリットとしては、
・外部からのコントロールが難しい
・即効性が低い
・標準化が難しい
ことが想定される。
さらに、内発的動機付けを高める方法としては、
・自己決定感を高める
・興味や関心に合わせた行動を選択する
・目標を設定する
・成長や学びを重視する
ことが挙げられるだろう。
これからの時代にますます重要視されるであろう、内発的動機付け。
企業の人事担当者としては、社員の意欲向上とそれによる会社の利益拡大のために、内発的動機付けの育成を目指した教育制度や社風作りを心がけていただければと思う。
参考:識学総研