管理職研修について、人事・研修担当者が抱える悩みは多い
本記事では、研修後に効果が上がりやすい管理職研修の企画方法とおすすめのテーマ・カリキュラムを紹介する。また、人事・研修担当者が抱えるお悩みへの回答もあるため、ぜひ参考にしてほしい。
目次
まずは、管理職の育成に関して人事・研修担当が抱えてしまいがちな悩みを説明する。
人事・研修担当者が抱えやすい悩みは以下の通りだ。
特に1位となっている「管理職の能力・資質にムラがある」と考える企業は多く、約半数が同じ悩みを抱えていることがわかる。人事・研修担当者としては、管理職となった人材がある一定水準以上のスキルを維持できるように、研修等を実施する必要がある。
厚生労働省「第2-(3)-28図 企業が管理職の登用・育成に当たって感じている課題」より引用
管理職の能力や資質にムラがあるという課題を解決するためには、「管理職としてあるべき姿・求められる役割」を管理職自身が理解し、足りていない部分を自発的に学び直させるということが理想だ。
しかし、それができている人材ばかりであれば「スキルにムラがある」という課題は出てこないはずだ。個人の学びに任せるという部分は限界があり、残念ながら「今のままでよい」という人材はいっこうにスキルもマネジメント能力も上がらないという状態になる。
管理職におけるスキルの二極化は、その配下にある部下やチームの成果にも関わる。より良いマネジメントや職場環境づくりはチーム全体の成果を上げることに繋がり、それがない職場では離職が続いたりメンタルヘルス不調が出てしまうなどの悪影響が発生にもつながりやすい。管理職の育成に関しては、個人に任せるのではなくある程度企業として学習の機会を提供させる必要がある。
管理職を育成するためには、社内外で研修を実施することが効果的だ。
ただし、研修をただ実施するだけではほとんど効果はない。管理職自身の行動が変わるように促すような研修を企画するべきだ。ここからは、効果が上がる(=管理職が育つ)研修の企画方法について紹介していく。具体的には以下の通りだ。
自社の管理職としてあるべき姿とはどのようなものかを具体的に明文化することから始める。研修テーマを考える前に、この部分を明確にできるかどうかが成果に繋がりやすい研修が企画できるかどうかを左右する。
管理職として一口に言っても様々な段階や役職がある。まずは管理職という大きなくくりを分割して考えると良いだろう。分け方としては以下の通りだ(一例)
あるべき姿をどのように組み立てるのかという手法は様々だが、ベースとなるのは経営計画書など企業の指針となるものだ。人事評価項目などから管理職に求める役割を洗い出すことでも良いだろう。
ここで重要なことは、「今の企業や組織を取り巻く状況とマッチしているか」を考えることだ。顧客や市場が企業に求めることは時代により変化する。企業を支える根幹ともいえるマネジメントを担う管理職に求める能力も、時代によって変わるだろう。その当たりも加味して考えてほしい。
新任管理職、中間管理職に対してあるべき姿を明確にした上で、現状を書き出してみるフェーズだ。現状どのような状態なのかを事実ベースで書き出す。人事・研修担当が全ての部署の現状を把握することは難しいため、現状把握については以下の手法で対応することがおすすめだ。
あるべき姿と現状のギャップから、課題を洗い出す。課題は複数出てくることがほとんどのため、リストアップした上で優先順位を付けよう。
優先度は緊急度×重要度で判断すると良い。企業にとって、どの課題を解決するとがより効果が上がるのかを考えながら選出していく。選出する数は一つひとつの課題の大きさや重さにもよる。複数個ヒックアップしても良いが、1年でこの課題を改善すると決めた方が効果は上がりやすい。
解決すべき課題を選出した後は、どのような研修テーマが課題解決につながるかを考えるフェーズだ。多くの研修テーマや種類が存在するため、選出に迷うという人事・研修担当者も多いだろう。研修テーマや内容を選出する際に押さえておきたいポイントは以下の通りだ。
研修のゴールとは、1回の研修が終わった後、受講した方にどのような状態になってほしいかというものだ。具体的な例を見ていこう。
項目 | 内容 |
---|---|
課題 | 管理職がハラスメントを恐れて上手く部下とコミュニケーションが取れていない。褒める・叱るということも適切にできておらず、目標達成への意識がチーム全体で低い。部下のモチベーションが低下し、チームのパフォーマンスに悪影響が出ている |
研修のゴール | 部下とのコミュニケーションも自身の役割の一つと再認識してもらい、学んだコミュニケーションやフィードバックスキルを明日から試そうという意欲を持っている状態になること |
対象者 | 部署をマネジメントしている社員(主に係長) |
研修で目指すゴールにも段階がある。具体的には以下の通りだ。もっと細かくすることもできるし、研修テーマによっても変わるため、「今回(今年)の研修で、どこまで到達することを目指すか」を明確にしておこう。
研修のゴールをどこまで持っていきたいかを決めることで、どのような研修テーマを何回実施すれば良いか、研修時間も決まってくる。企業からこの時間で実施してほしいと決められている場合も多いため、目指したい研修ゴールに必要な研修時間と与えられた時間とのバランスを取って、研修テーマや内容を設定していこう。
なお、1回の研修で課題を解決したいと考える方は多いが、ほとんどの場合1回でガラッと課題が解決することは少ない。新入社員向けのビジネスマナーなど、初級者へスキルを身に付けてもらう研修であれば別だが、ある程度経験や知識がある管理職向けの研修では、研修回数を重ねたり研修の間に実際の職場で実施した上で次回の研修でそれを振り返るなどで徐々に課題は解決に向かっていくものだ。このことは再認識してもらいたい。
ここまで準備ができれば、あとは研修を実施するだけだ。人事・研修担当としては当日できるだけ同席をしながら、課題解決に研修テーマが紐づいたかを見ていくことをおすすめする。社内で講師を立てる場合は、研修資料の印刷や配布なども必要になってくる。
なお、研修会社によっては終了後にアンケートを実施し、データを共有してくれる会社もある。研修実施後はそれらを確認しながら、次回の研修に活用していこう。
リスキルのように、ビジネス研修を提供している企業は複数ある。研修会社をどのように選ぶことが良いかという迷いも、人事・研修担当の方にはあるだろう。ポイントとしては以下を満たしているかどうかという部分がある。その他にも、自社として譲れない点(研修講師の質や実績)があれば、それらを確認した上で選出すると良いだろう。
ポイント | 内容 |
---|---|
研修内容を自社用にカスタマイズできるか | 自社の課題を解決する内容に合わせて、研修テーマやケースワークなどを変更できるかはチェックしたいところだ |
予算内で収まる金額か | 研修予算の中で収まる金額かというところもポイントだ。人数が増えた場合の追加料金やオプションなどでコストが増えていかないかも確認したい |
研修形式が選択できるか | 管理職という忙しく働く人材に対して、多様な研修形式から選択できるかも押さえておきたいところだ。オンライン研修・対面研修・ハイブリッド研修はもちろん、eラーニング動画講座などがあるかも確認したい |
人事・研修担当者として実施後のアンケートや感想を振り返る以外にも、研修内容が実施できているかを管理職自身に振り返る機会を設けることも良いだろう。研修をやって終わりにならないような仕組みを作っていきたい。
ここからは、管理職研修におすすめ・人気のテーマや内容をピックアップしていく。これらのテーマを組み合わせても、複数日設定して実施しても良いだろう。
管理職に必要なスキルとして一番目にピックアップされるスキルがマネジメントだ。マネジメント研修では、管理職の役割理解やマネジメントとは何かという基礎から、具体的にどのようにチームを率いて目標達成に向かわせるかというところまでを扱う。
業務のマネジメント、人のマネジメント、目標のマネジメントなどに細分化して実施することも可能だ(例:管理職向けマネジメント研修 基礎編)管理職に必要なスキルをまとめて扱いたいという場合におすすめの内容といえる。
「もっとリーダーシップを取ってくれ」とはよく言われることだが、具体的にリーダーシップを取るというのはどのような行動を企業として求めているのだろうか。リーダーシップ研修では、リーダーシップとは何かというところから、具体的にどのような行動を起こすことがリーダーシップに繋がり、結果としてチームにどのような影響を与えるかを確認していく。
課長以上などのベテラン層には変革リーダーシップ研修の実施も良いだろう。少し高い視座から経営を考え、組織や企業をより良くするための変革を考え、行動に移していくという内容だ。
部下育成・後輩指導研修は、人材育成に焦点を絞った内容だ。どのような育成方法を取れば、部下がやりがいを持って仕事をしてくれるかということを扱う。指示の出し方や報連相の聞き方、個人に合わせた育成方法についても扱うため「部下育成に課題を持っている」と感じている企業様にはおすすめできる内容だ。
管理職研修の中で最も包含する研修が多いのがコミュニケーション研修だ。具体的には以下の研修テーマを含む。
コミュニケーション課題が、基礎的な部分にあるのか、フィードバック方法にあるのか、評価面談や1on1ミーティングなどの面談スキルにあるのかによって、選ぶテーマは変わってくる。また、部署内や他部署との対立への対応力を身に付けてほしいという課題の場合はコンフリクトマネジメント研修が良いだろう。
ダイバーシティ・マネジメントという言葉がある。多様な属性を持つ方や働き方をする部下を受け入れ、一人ひとりが働きやすいようにマネジメントしていくという考え方だ。多様性の時代において、一人ひとりが強みを発揮するためには必要なスキルといえる。ダイバーシティ研修や管理職向け ダイバーシティマネジメント研修を受けることで、これらの課題を解決に促すことが期待できる。
上記までのテーマとは代わり、管理職になりたて(もしくは来年度から管理職に昇格する)にという方に向けての研修を企画することも良いだろう。新任管理職研修では、管理職に必要な基礎スキルやマインドを1から学ぶことができる。これと労務管理研修をセットで実施することにより、管理職に必要なスキルや知識を共有することができる。
管理職研修を企画するにあたり、よくある質問を2つピックアップしていこう。
管理職向けの研修について、厳しくしてしまうと学ぶ意欲が減るのではないかという声もある。実施する側や講師側(社内・社外問わず)がそこを厳しく追求するような形を取る必要はない。過度なストレスを感じさせてしまうとかえって逆効果になる可能性が高いためだ。
管理職研修は新たなスキルを見つけるという意味合いより「今、自分自身の現状と向き合い、行動を変える」ということを促す内容の方が多くある。そのため、受ける側としてはどのようなテーマであっても耳が痛い・厳しいと感じるかもしれない。研修を企画する立場としては、現状と向き合ってもらった上で行動に変えてもらえる程度の厳しさ・研修のレベル感は維持しつつ、モチベーションを過度に下げてしまわないようなバランスを取る必要がある。
研修内での指導やアドバイスを厳しいものにするのかという部分は、研修講師に委ねられる。社内外いずれで実施する場合についても講師に言及してほしいこと・してほしくないことなどがあれば事前に伝えておくことが良いだろう。
企業の規模に問わず、マネジメントする側には実施することがより良い選択だ。管理職に必要なスキルは、それまでの業務内で自然と身に付くというものばかりではないためだ。少人数であっても研修を実施し、学びの機会を提供することが良い。
本記事では、人事・研修担当者が管理職向けの研修を企画する際のフローやポイントを確認した。研修の企画は時間がかかるものだが、毎年同じものを実施していても効果が期待できないことも多い。今活躍されている管理職の方の課題は何かを考え、そこに訴求するような研修内容をじっくり考えてみよう。
なお、記事を作成したリスキルでは、管理職研修など500以上の研修テーマを用意している。カリキュラムを組み合わせるなどのカスタマイズも可能だ。ぜひ検討してほしい。