新入社員は社内の様子や業務内容を何も知らない。そのため、入社後すぐに社内研修を実施することが効果的だ。
ほとんどの企業が新入社員研修を導入している一方で「この内容で良いのか」「研修後、現場育成に余りつながっていない」などの意見もある。
今回紹介するOJTは、研修を受けた後に現場で効果的な育成をしていく方法の一つだ。今回はOJTとは何かを見ながら、行うときのポイントを5つ紹介する。
OJTとは先輩社員がトレーナーになって、現場で新入社員の指導をしていく教育方法だ。OJTは造船所の従業員への教育がきっかけで誕生したと言われている。
元々は既存の教育方法で人材を育てる予定だったが、それでは時間が足りなかった。そこで造船所で働いていた従業員を指導役として、新人育成が行われたのが始まりだと言われている。日本の企業では、昭和時代より研修に用いられるようになった。
OJTの目的は以下の3つだ。
OJTでは新入社員にいち早く現場で活躍してもらうための、スキルを提供する。社内の業務をスピーディーに回したり、従業員の負担を減らしたりするのが容易になる。
マンツーマンで行う教育方法であるため、1人の新入社員のみを考えて指導すればいい。大量の新入社員を同時に指導しなくて良い分、効率的な教育を提供できる。
OJTでは先輩社員の指導を受けたり社内の雰囲気を知ったりできるため、社内の業務スタイルを伝えられる仕組みになっている。社内の様子が新入社員に伝われば、職場でどのような働き方をすべきか考えられるようになり、新入社員が働きやすい環境を提供できる。
OJTには様々なメリットがある。ここでは、メリットを5つ紹介する。
即戦力アップを意識した教育内容が多い。社内の業務効率を上げたり手作業を上達させたりするスキルなど、先輩社員を見ながら業務に役立つ技を習得していく。
現場で活用できるテクニックを中心に習得できるため、新入社員の即戦力を鍛えたい企業にはOJTが向いている。
OJTでは講師を呼んだりセミナーの受講料を支払ったりする必要がない分、外部の研修と比べるとコストを抑えられる。費用をかけずに自社で研修を実施したい企業にOJTは最適だ。しかも全て自社での対応になるため、研修のスケジュールも調整しやすい。手間暇を考えてもOJTの方がいい。
新入社員は先輩社員と1対1で関わる機会が多いため、人間関係を構築しやすくなる。
さらにOJTで関わった先輩社員に他の社員を紹介してもらえれば、業務上の連携をとれやすくなるため仕事上にもプラスの影響を与えてくれるはずだ。
相手の理解度によって伝え方を変えられるのもメリットだ。たとえば講師1人が新入社員100人へ教える研修だと、各参加者に合わせて伝え方を変えるのは難しい。しかしOJTでは1対1での指導が可能であるため、特定の新入社員に時間を割けるのだ。伝え方を変えながら教育できるため、クオリティの高い教育内容を提供するのが簡単になる。
OJTを実施するときにトレーナーは、今までの自分が行ってきた業務を振り返ったり、新入社員へどのように伝えたりすべきかなど、様々なことを考える機会が生まれる。
自分の業務に取り組んでいるときには、思い付かない気付きを得られるチャンスもある。そのため、OJTはトレーナーのスキルアップにつながるのだ。
OJTを実施している企業の中には、失敗する事例もある。ここでは失敗の理由を4つ紹介する。
OJTの時間を確保できていないと教育がおざなりになってしまい、スキルを身に付けさせることが難しくなる。この状態で仕事をさせると、業務のミスを多発する原因になってしまう。
新入社員に業務で必要なスキルを伝えても、トレーナーの質が低いとスキルを習得するまでに時間がかかってしまう。企業の中には業務スキルが低かったり、経験が浅かったりする社員をトレーナーにしてしまい、OJTが失敗する例もある。
業務に役立つスキルを新入社員に伝えられなかったり、OJTの進め方が分からないトレーナーが現れたりする恐れがある。結果、新入社員が不利益を被ることになってしまうのだ。
社内がサポートしないとトレーナーの負担が重くなってしまう。トレーナーによっては自分の業務を溜めてしまうケースもある。社内での連携が取れていないと、サポート不足が起こる確率は高くなる。
ここではOJTの実施方法を4つ紹介する。
目的がない状況でOJTを行うと軸がブレる。OJTによって成果を得たいのであれば、目的をハッキリさせることが大事だ。「新入社員に何を持って帰ってほしいか」という視点で目的を考えさせた方がいい。
過去に行っていたOJTの内容やスケジュールで組むケースも多いと思うが、それが全ての新入社員に通用するとは限らない。新入社員によっては、別のカリキュラムを盛り込む必要性が出てくる。そのため、全ての新入社員に同じメニューをすれば良いわけではない。
新入社員に対して教育するトレーナーを決める。トレーナーを選ぶときは、2つのポイントを意識すべきだ。
新入社員が理解できるように教えたり、コミュニケーションを上手にとったりする力など、OJTのトレーナーとして必要なスキルのことだ。スキルが低い社員に任せると質の低いOJTを提供することになってしまうため、気を付けるべきだ。
新入社員との相性が良い社員であることも大事だ。いくらトレーナーとしてのスキルが高くても、お互いの空気感が悪いとOJTはスムーズに進んでいかない。トレーナー視点で見ると、新入社員のことが嫌いになってしまい、真面目に指導しなくなる恐れがある。
逆に新入社員の立場で見ると、先輩社員に苦手意識を持ってしまい、先輩社員に委縮されるかもしれない。新入社員が先輩社員に対して気を遣いすぎると、OJTを進められなくなる。その状況を生まないためにも、新入社員と相性が良い社員をトレーナーにすべきだ。
立てた計画を参考にしながらOJTを導入する。計画を無視すると、予定が狂ってしまい全てのカリキュラムを完了させられなくなる恐れがある。それを防ぐためにも、計画に沿って進めた方がいい。
しかし計画通りに進めようと思っても、OJTのスケジュールが狂うケースはある。そのときはOJTの中で時間を多くとっていた箇所を調整して実施するなど、工夫させることが大事だ。
OJTを成功させるには、ポイントを抑えることが重要だ。最後に5つのポイントを紹介する。
トレーナーは自分の業務をこなしながら新入社員の指導をする分、負担が大きい。自分のプレッシャーに押しつぶされるトレーナーもいるため、任せっぱなしにするのは危険だ。そのため、社内を挙げてサポートすることが大事になる。
たとえばトレーナーの相談相手がいれば、1人で悩みを抱えずに済む。解決策を提示しなくても、話を聞いてあげるだけでも励ましになる。その他にOJTをサポートする社員を数人配置して、トレーナーがOJTを進めやすくなる環境を整えるのも効果的だ。チームで協力しながら進める形をイメージするといい。
全ての業務にOJTが適しているわけではない。不向きの業務もあるため、見極めることが重要だ。誰が伝えても同じように伝わったり、ある程度マニュアル化されたりしているスキルはOJTに適している。
一方トレーナーによって伝わり方が大きく変わったり、経験させるだけでは習得が難しかったりスキルはOJTに適さない。時間を無駄にしないためにも、OJTに適している業務を見極めるべきだ。
OFF-JTとは現場とは違う場所で受講させる研修のことで、座学や講義形式が該当する。OJTの中には最低限の知識を身につけておかないと、理解できないOJTもある。
たとえば、プログラミングのスキルを例に出すと、プログラム用語を覚えておかないと入力スキルを習得させるのは難しい。よってOJTを導入するときは、OFF-JTを事前に行った方がいいか考えるべきだ。
OJTが終わった後、トレーナーは新入社員へフィードバックすべきだ。その工程がないと、新入社員は何ができて何ができていなかったのかが分からなくなる恐れがある。フィードバックを行うときは、新入社員の立場に立って伝えることが大事だ。
代表的なのが言葉遣いだ。日常的に使っている言葉でも、新入社員にとっては初めて聞く場合もある。この状態だと長時間フィードバックをしても、理解してもらうのは難しい。そのため聞き馴染みのある言葉を使って、新入社員へ伝えるべきだ。
企業がトレーナーの指導に力を入れるのも、OJTの目的を達成させるために大事だ。たとえ仕事のセンスが良い社員だとしても指導力があるとは限らない。OJTをより良いものにするためにも、トレーナーの指導に力を入れるべきだ。
指導をするときは、社内でトレーナー育成のためのOJT研修などを実施するといい。研修にはOJTのトレーナー経験を持つ社員に指導してもらったり、外部から講師を呼んだりなど様々な方法がある。
その他にトレーナー同士で、教え合わせてスキルを高めていく方法もある。お互い同じ状況の中で取り組んでいるため、仲間意識が強くなる。結果、モチベーションアップにつながるのだ。
OJTは新入社員に業務で役立つスキルを身につけてもらうため、行った方が良い教育内容だと言える。口頭で伝えるだけでは習得できないスキルや、ある程度マニュアル化されているスキルについてはOJTを導入するといい。
ちなみにOJTには、以下のメリットが存在する。
1.即戦力アップにつながる教育が中心になっている
2.外部の研修と比べてコストを抑えられる
3.先輩社員と人間関係を構築しやすい
4.相手の理解度によって伝え方を変えられる
5.トレーナーのスキルアップにつながる
新入社員だけではなくトレーナーや会社にとってもメリットがあるため、OJTの時間は確保した方がいいだろう。しかしOJTを実施しても、思うような結果が出ない場合もある。そのため成功させるためのポイントを抑えて、実施させることが大事だ。ポイントは以下の通りだ。
1.OJTをトレーナーへ任せっぱなしにしない
2.OJTに適している業務を見極める
3.OFF-JTを活用させる
4.新入社員にフィードバックさせる
5.トレーナーの指導に力を入れる
次々と新入社員に業務をこなしてほしいのであれば、上記のポイントを抑えてOJTの精度を上げるべきだ。会社の今後を支える人材としても新入社員は大事だ。現場で力を発揮してもらうためにも、OJTの環境を整えていただければと思う。