「離職防止」は現在どの会社でもテーマになっている。優秀な人材を流出させないのは、企業人事ととしてもっとも重要な動きのひとつだ。ただ、離職防止はその場の思いつきで実施しても効果は出にくい。しっかりと何に対しての対策を行うべきかを考えて実行に移す必要がある。
このページでは離職防止の方法を3パターンに分けて紹介していく。
社員が離職する原因は2種類ある。
このパターンは社外に原因があるため、社内で対応するのは難しい。具体例は以下の通りだ。
介護や育児など、家族の都合で離職するケースだ。家族の面倒を見る状況になり、仕事の継続が難しくなる。結果、退職してしまう。
自分の夢を実現させるために、新たにやりたいことが見つかって離職する社員もいる。違う業種の仕事を始めたり独立をしたりなど、様々なパターンがある。現状の仕事よりも、新たにやりたいことの方が勝ったときに起こる。
仕事に不満を抱えての場合は止められる可能性があるが、このパターンの場合は諦めるしかない場合が多い。
社内に対して不満を抱えてしまい離職するパターンだ。大半は社内の対応で防げるため、会社としては⓵ではなく⓶が原因で離職する社員への対策を行った方がいい。以下の内容が⓶に該当する。
職場内での人間関係がこじれて、離職するパターンだ。離職する原因の中で最も多い。人と関わるのが苦手だったり職場で孤立してしまったりなど原因は様々だ。社員によっては心身ともに滅入り、体調不良に陥ってしまう場合もある。
給与・待遇面に対して不満が生まれてしまい、離職するパターンもある。「働いている割に給与が安い」「仕事で成果を出したのに出世できない」といった形で不満を抱えてしまう。このタイプの人は、待遇の良い会社へ転職する。
仕事に関する不満で離職するケースもある。「もっと高度な仕事がしたい」「同じ仕事ばかりで飽きた」といった形で、仕事内容に不満を抱えてしまう。仕事に対する熱が冷めて、他の仕事をしたいと思うようになり、退職への道を進む。
会社の将来性に不安が生まれて、離職する社員もいる。当たり前だが、社内の業績が大赤字になったり倒産危機が報じられたりすると、不安な気持ちを抱える社員が増える。
また、倒産危機が報じられるなどではなくとも、将来的に苦しいと言われる業界にいるとそこへの不安感は常にある状態となる。
離職防止には、これらの3パターンに対応する必要がある。まずは退職者インタビューなどで情報を得た上で、上記のいずれの不満が多いかを確認し、それらに対応していくことだ。
人間関係が原因による離職を防ぎたいときは、以下の方法を試すといい。
準備もいらず、投資もかからず、リスクは低いが、割と効果的だ。とにかく一歩目を早く実行したいときは、程度が低いと思われるかもしれないが、とりあえずやってみるのが良い。
社員間でコミュニケーションをとれる場を増やす。孤独感が減り、人間関係の悩みを減らす効果が期待できる。社内の懇親会を実施すれば、楽しい雰囲気の中でコミュニケーションをとれるし、業務スキルの向上を目的にする場合は勉強会の実施が効果的だ。その他にも社内サークルの活動やイベントの実施など、状況に合わせて場のつくり方を変えるといいだろう。
上司と部下で定期的に面談を行って、人間関係による悩みを解決していく方法もある。面談を定期的に行えば、悩みが大きくなる前に解決する方法を考えたり、上司と部下の間で信頼関係が築かれたりするため、人間関係が原因で離職する確率を減らせる。
1on1を実施するのも良い。企業の中にはメンター制度を設けて、社歴が近い先輩に相談できる環境を整えているケースがある。社員が悩み事を話したいと思う環境を、つくることが大事だ。
上司や同僚からのハラスメントによって、人間関係がこじれるケースも未だに存在する。その場合は、下記のようにハラスメントが起こらない環境を整えることが大事だ。
研修を実施してハラスメントの重要性を社員に広める方法だ。パワハラ研修やセクハラ研修など、コンプラ・ハラスメント研修系を実施することが良いだろう。
ハラスメントの影響や加害者側に回るデメリットなどを伝えると、意識するきっかけになる。結果、ハラスメントの被害を減らすことにつながるだろう。
社員への聞き取り調査を行うと、ハラスメント被害が出る前に発見できる可能性がある。しかも聞き取り調査のことを全社員に伝えておけば、それを意識して加害者が減るかもしれない。よってハラスメントが起こらない環境をつくる上で効果的だ。
パターン⓶に該当する方法は以下の通りだ。
選択制にすれば自身のライフスタイルに合わせた働き方を実現しやすくなり、労働条件への不満を抑えられる。(実際は業務よって難しいのはわかっているが、効果的なのは事実だ)
労働時間であれば、勤務時間を短くする「時短制度」や出勤時間をある程度自由に決められる「フレックスタイム」の導入。働く場所であれば、自宅やコワーキングスペースなど、社外での勤務も選べる形にするといい。自身に合った働き方ができるようになれば、離職率を抑えられる。
業務効率が良くなる環境をつくるのも効果的だ。システムの完備を行ったり、ツールを活用できたりする状況を整える方法などがある。業務効率が良くなれば、残業や休日出勤の数が減る。プライベートの時間が増えるため、離職防止の効果が期待できるだろう。
精神的に病んでいる社員が増えると、職場の雰囲気が暗くなり労働条件の劣悪化につながる。それを防ぐために、メンタルケアに力を入れることは効果的だ。たとえばヨガを行うと、自分と向き合うことによって心に余裕ができていき、メンタル不調を解消しやすくなる。
その他にも、社員の悩みを聞くカウンセラーに来てもらうのも効果的だ。カウンセラーに相談事を聞いてもらえるだけで落ち着く社員もいる。社員のメンタルを整えるときなどに活用させるといいだろう。
パターン③は以下の方法が該当する。
とにかくまず強みを発揮させるように動くことだ。
強みを発揮させる環境を用意すると、仕事に対してポジティブな気持ちが生まれて、やる気につながる。「自身のスキルを活かしてチャレンジできる場を用意する」、「能力を発揮できそうな業務を振る」などを行うと、前向きに仕事へ取り組める場面が増えて、最大限の効果を発揮できるはずだ。
弱みをスルーし、強みを発揮していると人間は仕事が楽しくなる。
キャリアプランを作成させると、自分が目指す方向を把握した状態で仕事に取り組める。仕事に迷いがなくなるため、モチベーションの低下を防げるだろう。
ちなみにキャリアプランを作成させるときは、なりたい自分像をイメージさせることが重要だ。その後、現状と目標のギャップを認識させ、それを埋めるために何をすべきか考えさせるといい。目標達成に向かって、仕事で何をすべきかが明確化されるため、仕事のモチベーションを下げずに済むだろう。キャリアデザイン研修などを実施することも一つの手段だ。
ジョブローテーションとは社員を成長させるために、様々な業務を経験させることだ。新たなスキルを手に入れたり気付きを得られたりするため、モチベーション低下を防ぐ方法として効果的だ。
ただし異動先は、対象者の向き・不向きを考えて決めた方がいい。異動先によっては、思ったよりも仕事ができずに、社員のモチベーションを低下させる恐れがあるためだ。そのため、異動先を決めるときは面談などを行わせて、慎重に決めた方がいい。
離職防止を行うときのポイント・注意点は以下の通りだ。
社員が悩みを溜めこんでしまい、離職を考えてしまう恐れがある。社員が悩みを溜めこまないために普段からガス抜きができるよう、相談しやすい環境をつくっておくことが重要だ。
しかし相談しやすい環境かは、職場にいる社員の雰囲気によって変わってくる。たとえば相談する側が、普段から威圧的な態度をとったり、自分の価値観を押し付けたりする話し方をすると、社員は相談しづらいと思ってしまう。よって普段から相手の視点に立って、接することが大事だ。
いくら改善策を講じても、社員に合ったものを提供できなければ効果は発揮されない。年齢や役職・立場によって離職の原因は異なるため、状況を把握したうえで最適な方法を考えることが大事だ。
様々な企業で離職防止の取り組みが行われている。ここでは、3つの事例を紹介する。
サイボウズでは、社内の働き方に多様性を持たせることで離職防止の効果を実現させた。自社では100人いれば、100通りの働き方があって当たり前だとしている。極力、社員が理想とする働き方ができるよう、様々な制度を誕生させた。
たとえば「育児・介護休暇制度」は最長で6年間利用でき、復職しやすい環境を整えている。その他に、勤務時間や働く場所をライフスタイルによって選べる「働き方宣言制度」も2018年4月から開始された。このような取り組みを行った結果、28%あった離職率を3%台まで下げることに成功している。
ビースタイルでは、20%の離職率を8%に下げた実績がある。たとえば「バリューズ・パワーランチ」では、自社で定められている行動理念の中から1つをトークテーマとして選ぶ。それをもとに、社員や役員で情報交換をしたり、交流をしたりする食事会となっている。
またイクボス企業同盟に加盟して、育児をしながらでも働きやすい環境をつくるための取り組みも行っている。社員がコミュニケーションをとったり、働きやすい状況をつくったりした結果、離職防止につながったのだ。
日清食品ホールディングスでも、社員を働きやすくする環境が目白押しだ。たとえば多様性に関する取り組みでは、性別に関係なく活躍できる場を用意している。女性社員の向けの研修を用意したり、LGBTの方が能力を発揮できる環境を整えたりなど、様々な文化の方が働けるようになっている。
また東京本社内には、社員同士が偶然出会いアイデアや意見を出し合う場をつくって、化学反応を起きやすくする環境が完備されている。時代に合った取り組みにトライしている企業だと言えるだろう。
離職防止は、会社や社員を守るために必要なことだと言える。退職者が増えてしまうと、社員の業務量が増えたり、会社のブランド力低下を引き起こしたりする恐れがある。
なかでも会社が原因で起こる離職は、社内で対応策を講じなければ止めるのは難しい。よって会社側で迅速な対応が求められる。離職防止の際は、以下の方法を使い分けると効果を発揮しやすくなるだろう。
⓵人間関係が原因の離職に対処する場合
⓶労働条件が原因の離職に対処する場合
⓷業務のモチベーション低下が原因の離職に対処する場合
3パターンの方法を知っておけば、社員から離職したい旨を伝えられたときに臨機応変に対応できるはずだ。また離職防止の際のポイントを2つ抑えておくと、より一層効果が表れやすくなるだろう。
会社を持続させるには、優秀な人材に居続けてもらうことが大事だ。そうしないと業務がストップする原因になってしまう。社内の状況を悪くしないためにも、離職防止に力を入れていただければと思う。