後継者育成に悩んでいる企業もあるだろう。それを解消するのに役立つのが「サクセッション・プラン」だ。このプランを参考にしながら後継者育成を行えば、育てるのが楽になるはずだ。
サクセッション・プランの立て方を知れば、会社の理想通りに後継者を育てられる。本記事ではサクセッション・プランの概要を紹介しながら、後継者育成の流れを紹介していく。
サクセッション・プランとは、後継者育成のときに立案する計画のことだ。プランの内容をもとに、後継者候補となる従業員を育てる。
後継者不足によって、廃業する企業も珍しくない。従業員たちを路頭に迷わせないためにも、サクセッション・プランを立案し、常に後継者育成できる状況を用意しておくのが大事だと言える。
サクセッション・プランは、後継者の育成を目的につくられるプランだ。したがって、後継者の対象とならない従業員には適用されない。
対して人材育成は、企業に貢献できる人材を育てることを目的としている。新入社員や中堅社員、管理職など大半の従業員が対象となるため、サクセッション・プランよりも範囲が広い。したがって、両者は別物だと言える。
ここからは、サクセッション・プランを立てるメリットを紹介していく。
会社として後継者育成に力を入れると、対象となった従業員は後継者に選ばれるように仕事に精を出す。当事者のやる気が他の従業員に伝われば、社内全体の士気が高まる。結果、組織の活性化に役立つ。
サクセッション・プランを立てれば、いつでも後継者育成に取り掛かれる。後継者を生みやすい状態が出来上がっているため、後継者不足に陥らずに済む。
サクセッション・プランがあれば、それをもとに後継者育成ができる。新規事業時に必要なスキルを習得できるため、立ち上げがスムーズになる。
サクセッション・プランによる後継者育成は、社内の従業員を対象にしている。社内の事情をある程度知った従業員が対象となっており、一から社内教育をする必要がない。外部人材を雇う必要もないため、人材育成や採用コストの抑制に役立つ。
ここからは、サクセッション・プランの流れを紹介していく。
経営理念・経営戦略を決めないと、どのような人材が必要か定まらない。適当に後継者育成を進めることになり、会社運営に支障をきたす。
会社にマッチする人材を後継者育成の対象者とする意味でも、経営理念・経営戦略などは明確にすべきだ。ちなみに、経営理念・経営戦略などを明確にする際は、以下のことを意識すると良い。
企業が目指す方向性と違う内容にしないために、企業のビジョンやミッションを明確にしてから経営理念を決めた方がいい。会社の想いや価値観を可視化すると、経営理念を決めるのが楽になるだろう。
経営戦略を決めるときは、経営理念を考慮することが大事だ。両者が乖離していると、自社に適した経営戦略を立てられなくなる。
その他に自社を分析して、どの視点から勝負を仕掛けるのがベストか考えるのも重要だ。勝負の仕方を誤ると、会社が弱体化するからだ。市場に必要とされる会社にするためにも、自社が勝てる勝負の仕方を把握してから経営戦略を決めた方が良い。
後継者育成の対象となる、ポジションを考えていく。「役員もしくは役員候補」と範囲が狭い場合もあれば「部課長以上の役職者」といった形で範囲が広い場合もある。会社の規模感を考慮することが大事だ。
企業の将来性や経営戦略をもとに、どのような人材が必要か決める。人材要件を定義するときは、以下の項目を設定すると良い。
後継者に必要なスキルや能力を洗い出す。マネジメントスキルやリーダーシップなど、さまざまなスキルや能力が必要とされる。会社の規模感や事業内容、メンバーによって必要なスキルや能力は異なるため、しっかりと精査すべきだ。
いくらスキルや能力が高くても、人柄が良くないと従業員たちのモチベーションが下がる。会社の雰囲気が悪くなり、最終的には社内生産性の低下を招く。従業員たちが働きたくなる職場をつくる意味でも、人柄も設定した方がいい。
たとえば全従業員から嫌われている人材だと、後継者として就いた際、言うことを聞いてもらえない場合がある。後継者と従業員の対立は、会社が傾く原因になってしまう。そのため、従業員との関係性も確認すべきだ。
どのような価値観を持っている人材にするかも大事だ。会社の方向性と違う価値観を持っている人材を後継者にすると、会社が目指すべき方向と違う行動をとってしまう。それを防ぐためにも、後継者にふさわしい価値観が何かを明確にした方が良い。
会社に在籍していると、多少なりとも荒波はやって来る。マインドが低い後継者は、プレッシャーに押しつぶされて判断ミスを犯してしまう。その結果、会社を弱体化させる。
しかしマインドが高ければ、会社を良くするための行動をとり続ける。それが会社の成長へつながっていく。マインドの持ち方で、後継者の舵の切り方が変わる。そのため、確認した方が良い。
人材要件に該当する従業員を抽出して、対象者を決定する。以下のことを意識しながら抽出するといいだろう。
後継者になる人材は、自社に貢献している従業員がふさわしい。自分の欲にまみれている人間は、会社のためになる行動をとらない恐れがあるからだ。
たとえば、営業部に所属している従業員であれば、個人の売上高や契約件数などを見るといいだろう。すると後継者にふさわしい実績を持っている人材か分かる。
過去の実績だけでは、後継者にふさわしいか判断できない。なぜなら、内面的なものが見えないからだ。サクセッション・プランの対象者として選んでも、本人にやる気がなければ意味がない。そのため、従業員の気持ちを知ることが大事だ。
対象の従業員と面談をしたり、他の従業員から話を聞いたりすることで、特性や性格・心構えなどが分かる。それをもとに、後継者にふさわしいか判断するのも大切だ。
サクセッション・プランの対象者が多くて困ったときは、いくつかのパターンに分類すると良い。たとえば「今すぐ後継者にしたい」、「3年かけて育てたい」「5年かけて育てたい」といった形で選択肢を用意すれば、より多くの従業員を対象者として選べる。
育成計画を考えたら、プランに沿って実行していく。実行する際は、以下のポイントを抑えると良い。
対象者によってプランを変える理由は、対象者の能力やポジションによって、必要なプランが違うからだ。対象者全員のスキルを上げたいのであれば、従業員ごとでプランを分けた方がいい。
進捗状況を確認する理由は、プランを実行できていない場合があるからだ。対象者の中には無理だと思い込んで諦めたり、本業に支障をきたすという理由で勝手に辞めたりする場合がある。
その状態を放置すると、サクセッション・プランの意味がなくなる。最後まで意欲的に取り組んでもらうためにも、コマメに進捗度を見るべきだ。
サクセッション・プランを立てたものの、うまく育成できないケースもある。その場合は、軌道修正した方がいい。プランに沿って強引に進めようとしても、結局失敗に終わるからだ。
後継者教育を進めているうちに、プランの変更が必要になることも珍しくない。変更が必要なのに放置したまま教育すると、会社の理想とかけ離れた後継者に仕上がってしまう。それを防ぐ意味でも軌道修正する習慣は、あった方がいい。
サクセッション・プランは、さまざまな企業で立てられている。最後に事例を3つ紹介する。
トヨタ自動車株式会社では「GLOBAL21プログラム」と呼ばれる名称で、サクセッション・プランを立てている。自社の役員や部長を対象としており、世界的に活躍できる幹部を育てるためのプランとして活用されているようだ。
自社が大事にしている考え方や哲学、従業員の管理など、必要なスキルを伝えている。最終的にトヨタイズムを植え付け、後継者として活躍できる状態に仕上げていく。
株式会社良品計画では、課長以上のポストに就いている従業員を対象に、サクセッション・プランによる育成を行っている。ファイブボックスと呼ばれるものを活用して、対象者をジャンル別に分けているのが特徴だ。
「リーダーとして活躍できそうな人」「3年後に活躍できそうな人」「スキルが不足している人」といった形で、該当する所に当てはめる。それをもとに、後継者育成の仕方を変えている。
カゴメ株式会社でも、自社が築き上げた価値観を未来永劫伝承するために、次期社長・幹部の候補者を中心に「サクセッション・プラン」を提示している。
初めに社内の「人材開発委員会」が中心となり、対象の候補者を選ぶ。その後「報酬・指名諮問委員会」の担当者が候補者との面談を行うことで、対象者を決めている。
会社に売上や利益があっても、後継者がいなくなると従業員の統率が難しくなる。チームのまとまりがなくなり、社内が混乱してしまう。その状態を防ぐためにも、「サクセッション・プラン」を用意して、後継者育成に取り掛かれる体制をつくることが重要だ。
ちなみにサクセッション・プランには、以下のメリットがある。
人事や労務の手間が減ったり、人材に対する費用を抑えたりできるため、会社運営にとってはプラスだと言える。しかしサクセッション・プランを適当に策定しても、効果は出ない。対象者を育てるには、正しい流れで教育することが大事だ。サクセッション・プランを用いた後継者育成は、以下の手順で行うと良い。
ステップを飛ばさずに教育していくと、効率よく育っていく。会社を担う人材を誕生させるためにも、サクセッション・プランの策定に力を入れていただきたいと思う。