多くの人が集まって組織が形成されると、その中でさまざまな人間関係が生まれたり、スキルに差が出てくる。会社の中でも、会社や自分自身を成長させるためにひたむきに取り組む人がいれば、最低限の仕事しか行わないという人もいる。
そこで、今回は働きアリの法則についての基本的な概要の説明とともに、組織作りへの活用の仕方についても紹介する。
働きアリの法則とは、「2:6:2」の法則とも言われるが、組織のなかで一生懸命に働いているのは全体の2割でしかないという法則だ。実は働きアリのうち、積極的に仕事をこなすのは2割とされている。あとの6割は普通に働くアリ、2割はさぼっているアリで構成されている。この割合は、集団を変えても同じようなグループに分かれることが明らかになっている。つまり、2割の「優秀な働きアリ」たちばかりを集めたグループをつくったとしても、時間とともにいつの間にか「2:6:2」に分かれてしまう。また、同じように、働かない2割のアリばかりを集めた集団でも同じ変化が起こることがわかっている。
「働きアリ」の法則は、人間にも当てはまると考えられており、2割の優秀な従業員が会社の業績の8割に貢献し、6割のふつうの従業員が仕事をそれなりにこなし、残り2割が「働かない」とされる。こういった、アリの一生をビジネス上では「働きアリの法則」と呼んでいる。
「パレートの法則」というものがある。この法則は、イタリアの経済学者ビルフレッド・パレート(1848~1923)が提唱した理論で、「パレートの法則」や「80:20の法則」、「2:8の法則」などと呼ばれることもあり、「集団の上位の2割が、全体の8割を生み出す」という傾向のことを指す。集団の中の報酬の評価は、一部の構成員によって生み出されているという経験則だ。ビジネスにおける考え方では、「全商品の中の2割が、全体の売上の8割を生み出している」、「売上の8割は、全顧客の2割によって生み出されている」などと解釈されている。
では、なぜ2割は働かなくなるのだろう。
それは、反応閾値が関わってくると言える。やるべき仕事が発生したという情報があった時、反応閾値の低い従業員は、ちょっとした刺激ですぐに行動を起こすのに対し反応閾値の高い従業員は動かない。これが働かない2割となる。反応閾値の低い人も高い人も、本来は基礎的な能力に差は大してないが、ただ、行動の早い人、仕事の着手が早い人、仕事に対して腰の軽い人には仕事が集まり、結果として能力も向上し成果も出るようになるという好循環が生まれ、これが上位2割~中間の6割の従業員に当たる。
人生の大半を占める仕事において、この差はとてつもなく大きなものとなり、「仕事に対する腰の軽さ」「着手の早さ」が、結果として成果につながること、能力向上にとってとても大きなポイントとなる。
働きアリの法則を上手くビジネスシーンに活用する方法を紹介する。
働きアリの法則をマーケティング戦略や新規事業の立ち上げに活かすには、上位2割の顧客に着目することが大切だとされる。ターゲットを上位2割に絞って積極的に営業活動を展開し、商品やサービスを開発することで、顧客との関係をキープすることが有効な戦略だとされ、上位2割を手放すことがないような戦略が必要となる。
働きアリの法則は、一般的な会社では社員教育や人事評価にも活用されている。働きアリの法則に習い、ある会社の社員を上位2割、中位6割、下位2割に分けて考えてみると、効果的な社員教育に結びつけることが可能となる。
上位2割の優秀な社員は、もともと持ち合わせている能力をさらに伸ばすために、昇格させて裁量権を与えるなどのマネジメント力を強化するキャリア育成が積極的に行うべきだ。生産性の高い上位2割の社員教育に力を入れることで、全体の生産性を高めようという戦略となる。
上位2位に入る優秀な人たちはもともと自分で問題に気づき、積極的にスキルアップに努める傾向にあり、多少難易度の高い仕事を与えられたとしても、自ら気づきを得て学びながら力をつけていくことができる。そのため、ストレスをかけすぎない程度に自己成長を促せるよう、高い目標を設定するような指導育成方法をするべきだ。
中位6割の社員は平均的な成果を上げているものの、モチベーションや将来こうなりたいという考えを持っていない人が多くいると想定される。そのため上位2割の社員とのコミュニケーションを取る機会を与えて、キャリアプラン作成や研修の場を積極的に作っていくのがいいだろう。
具体的には、タイムマネジメント研修やモチベーションアップ研修など、仕事にやりがいを持ってもらう内容や、より仕事を適切にこなす内容が良いだろう。
仕事にストレスを感じていたり、自身のスキルに限界を感じているような中位層については、セルフケア研修も効果的だ。新入社員については新入社員向け ストレスマネジメント研修なども良いだろう。
上位2割の人だけに積極的なアプローチをしても、この中間層との間にさらなる差を生むだけで組織全体を引き上げることはできないため、逆に中間層6割を引き上げることで、上位2割のグループにも好影響を与え、全体的にレベルが上がる可能性が出てくることから、中間層に対しては目標とすべきところを与えることが大事となる。
そのうえで目標に到達するにはどのようなことを行えばいいのかという、適切な指標を与えることも必要になるため、1on1ミーティングやメンター制度などを取り入れるのがいいだろう。うまくできたことや失敗したこと、悩みなどを内省するきっかけとなり、上司や先輩などからフィードバックをもらえることで自ら考え、行動を起こせるようにもなる。
生産性が高くない下位2割の社員には、なぜ成果が上がらないのかという振り返りをすることが必要となる。もしかしたらほかの業務に適性があると気付けるかもしれない。ここでも上長との円滑なコミュニケーションが大切だとされる。
従業員が定着・活躍できる組織を作るために、自社の従業員の特徴や強みをしっかりと把握することが大切だ。動かないアリたちは、やろうと思っても一歩が踏み出せなかったり、迷いがあるかもしれない。社員の声をきくこと、反映させることは大事なことだ。中間層の引き上げは全体を引き上げること、さらに上位の2割もモチベーションを上げることにつながっている。また、適切なデータをもとに各社員の働きぶりを可視化することも大事だ。職位に見合った働きができているのか、データで検証する必要もあるだろう。
あらかじめ設定しておいたプロジェクト、目標(予算)に対して、実績や、働きぶりを評価していくことが大切だ。データをもとに論理的に説明されれば、自分に何が足りないのか冷静に考えることもでき、次のステップにつながりやすい。
某プロ野球球団は、FA(フリーエージェント)等で各チームの4番打者ばかりを集めていた。しかし、結局思うような成績を残すことができない。1番〜9番までの役割を果たせる選手がいて強いチームなので、スター選手を集めても勝てる選手にはならないことに気づいた。もちろんホームランをたくさん打てる4番打者がいるのは心強いが、守備や盗塁ができる選手、バントが上手な選手、各分野に適材適所の選手をバランスよく習得する方がチームの成績が上がった。
そのほかの控えの選手にしても、けがに備えた選手の強みを生かした練習で土台の強いチームが出来上がり、シーズンを優勝することができたという。適材適所に人員配置をしていくと、会社や組織として強いチームができるという良い例だ。
またあるIT企業の場合では、会議でなかなか発言しない人も少なからず存在することを改善したいと思っていた。聞いているだけで良しとする会議であれば会議は必要なくなる。発言しないメンバーを否定するのではなく、静かなメンバーだけの会議をつくることにした。
働きアリの法則を応用して、会議で静かなメンバーだけを集めて、そのメンバーたちで会議を行ったところその中からまたリーダーシップを取る人が現れ、会議が成立したという。設定された環境に従って会議を行えば、発言しづらかったメンバーの中でも新しい形でのアイディアや意見が出て、会社内でのモチベーションがあがったという。
このような形を取ることで、思わぬアイデアを持っていたり、ビジネスのヒントや大いなる気づきに出くわすことがあるかもしれない。
働きアリの法則をうまく用いれば、このようにがらりと企業の雰囲気を変えることも可能だ。社員のレベルが違うからと切り捨てたりせず、その中での課題を与える環境づくりが大いに役立った例である。
組織を引っ張るような立場があるレベルの社員については必要以上に心配することはなく、その他大勢の6割をまずは基準に引き上げることで会社全体のモチベーションを上げることが大事であるのが働きアリの法則である。その中で、下層の2割も必要な存在であることも忘れてはならない。組織の中で同じレベルだけを集めることは決して良いことではない。みんなのそれぞれの役割や力を合わせることで、一つの企業利益が生み出されることや、職場が活気づくことを心に留めておく必要がある。
会社の人事は、そのように割り振ることが一番大事だ。企業の人事として、構成や組織作りを見誤らないことがポイントとなる。働きアリの法則を頭に入れておくことで、それぞれの立場の人間を上昇させていくことが継続的な企業成長には不可欠だ。