社員にコンプライアンスの知識を身に付けさせることは企業として重要なことだ。しかし「コンプライアンス教育」は正しい手順で運営していかないと、質は上がらない。
コンプライアンスという言葉を理解していたとしても、「自身が関わる業務範囲内で、守るべきことは何か」と考えなければ効果が発揮されない。
今回は、コンプライアンス教育をスムーズに行い、法令遵守の意識を明確に持ってもらうために必要な5つのステップとポイントを紹介する。
目次
コンプライアンスとは、法律や法令・社内で独自に定めている社内規則、社会通念上必要とされる倫理観などを守る取り組みのことだ。企業は一定のルールに沿って、運営していく必要性がある。
コンプライアンス教育が広まった背景は以下の3つの要因がある。
コンプライアンスの範囲は、年が経つにつれて広まっている。そのため、コンプライアンスに関する情報をアップデートする必要がある。たとえば法律や条例・社内マニュアルが改正されると、コンプライアンスに関する情報を手に入れる必要が生じる。それもコンプライアンス教育が広まった理由の1つだ。
コンプライアンスに力を入れている、海外企業が競合になるケースも珍しくない。その際コンプライアンスの教育ができていないことが原因で、競合企業に敗れてしまう場合もある。
国際競争力を高めるには、コンプライアンス教育に力を入れざるを得ない状況になっている。
不祥事を起こした企業に対する風当たりが強くなっているのも、広まっている理由だ。これまでに様々なコンプライアンス違反が行われてきた。
現代ではSNSが発達しているため、ちょっとした問題でも多くの人に知れ渡る恐れがある。その状況を防ぎたい企業が増え、コンプライアンス教育は広まっているのだ。
以下の記事では身近なコンプライアンス違反の事例など詳しく紹介されているので、是非あわせて読んでみてほしい。
→企業におけるコンプライアンスの重要性と強化方法を解説
ここからは、コンプライアンス教育の目的を3つ紹介する。
この価値観を持っていない社員は、自分の利益のみを考えて行動する恐れがある。その状況を作らせないために、道徳観・倫理観の習得は大切だ。
何も気づかずにコンプライアンス違反をする社員もいる。その理由として、コンプライアンスに対する知見がなかったことが挙げられる。
この場合、コンプライアンスを守ろうと思っても100%防ぐのは難しい。極力その状況でコンプライアンス違反をしないようにするのも、目的だと言える。
コンプライアンス違反をすることで、自分にどのようなリスクが降りかかるか実感してもらう目的もある。リスクを知れば、故意でコンプライアンス違反をしようとする社員を減らすことにつながる。
コンプライアンス教育には多くのメリットがある。ここでは3つ紹介する。
従業員はコンプライアンスを意識した働き方ができるようになる。後輩にもコンプライアンス違反を犯さない働き方を伝えやすくなる。
コンプライアンスを大事にする社員が増えれば、自社のサービスや製品を利用する顧客も増えやすくなる。売り上げが落ちにくくなるため、企業の成長につながる。自社のことを顧客に長期間応援してもらうためにも、コンプライアンス教育は必要だ。
コンプライアンス教育を行っておけば、世間からはコンプライアンスに力を入れている企業だと認識されやすくなる。これにより企業のブランドダウンを防ぐことができる。
ここではコンプライアンス教育の、実施例を紹介する。
最初にコンプライアンス教育のゴール地点を決める。設定したゴールによって、コンプライアンス教育の内容が変わるためだ。コンプライアンスに関する研修の種類は何千もある。
仮に全社員のコンプライアンスに対する意識を上げたいのであれば、それを実現させる研修を組むのが一般的だ。それに関係ないカリキュラムを組むと、質が下がる可能性がある。最初に設定したゴールを効率よく達成するためにも、大切なステップだ。
コンプライアンス教育に割くスケジュールを決める理由は、日数に適したプログラムやカリキュラムを組み入れるためだ。1日で終わるものもあれば、3日間以上必要となるものもある。
強引に短縮するケースもあるが、その行為は研修の質を低下させてしまうかもしれない。その確率を減らすためにも、研修期間を決めておくことは大事だ。
実施理由を決めたら、コンプライアンス教育の内容を決める。たとえば、このような内容がある。
パワハラやセクハラなど、ハラスメントを中心とした教育のことだ。ハラスメントを理解する講習や自分が加害者にならないための方法などが盛り込まれている。ハラスメントによる被害を出さないのはもちろん、自分の身を守る意味でも大切な研修だ。
情報セキュリティとは、企業が持っている情報を漏洩させないためのセキュリティのことだ。企業では会社のマニュアルや従業員に関する情報、顧客リストなどあらゆる情報を握っている。
社内の情報が漏洩すると、他の企業の開発材料として使われたり悪用されたりして企業の信頼がなくなってしまう。
コンプライアンス違反の事例や罰則などを説明し、コンプライアンスの重要さを意識してもらう研修もある。コンプライアンス研修と呼ばれるものだ。他人事として聞き流されないために大事な教育内容だと言える。
その次に、受講対象者の選定へ移る。研修の実施目的や教育内容によって違う。全従業員を対象とする場合もあれば、中堅社員のみ、管理職のみというように区分するケースもある。
研修が終わるたびに受講生へ振り返らせると、新たな気付きを得たり復習になったりする。実践の場で活用してもらうためにも振り返りの機会を設けるのは大切だ。
最後にコンプライアンス教育をするときのポイントを5つ紹介する。
コンプライアンスと言っても企業によって中身は異なるため、自社のコンプライアンスの概要は伝えた方がいい。するとコンプライアンス教育で理解した内容を、実践で活かしやすくなる。社内のコンプライアンスが記載してある冊子やマニュアルの場所を社員に教えておけば、社員自身がいつでも閲覧できるようになる。
従業員によってコンプライアンス教育の内容が異なるにしろ、全社員に行った方がいい。コンプライアンス教育を受講していない社員が、規律を乱す恐れがあるためだ。
コンプライアンス違反を行う社員が1人いるだけで、別の社員に伝染してしまい社内環境の悪化を招く危険性がある。その状況を回避するには、各社員がコンプライアンスの意識を高めて行動することが重要だ。それが会社の質を上げることにつながる。
コンプライアンス教育の内容によっては、専門用語などが出てきて、受講生が理解に苦しむケースもある。聞き馴染みのない言葉を中心に、かみ砕きながら説明することも重要だ。
受講生に「研修の内容を聞いて分かった」と理解してもらうためにも、理解しやすい言葉を並べて話すことが大事だ。
自社の事例を用いて分かりやすく説明するのは、コンプライアンスについてイメージしやすくするためだ。たとえば自社の職場を用いて「〇〇課で、××の違反をしてしまうと△△の状態になる恐れがある」と説明するとイメージしやすい。
イメージができれば、コンプライアンスへの理解度は高まる。いかに受講生の視点に立って、理解してもらえる話を描けるかが大切だ。
研修で得た内容を、参加者同士でアウトプットし合うのも大事だ。理由は以下の2つだ。
相手へ伝える場合、聞いた内容を自分なりにかみ砕く必要がある。その作業は教わった内容を復習したり分からない言葉を知ろうとしたりするきっかけになり、理解度のアップが期待できる。自分の知見を深める意味でも大事だ。
自分が聞き逃していた箇所を見つけられたり、自分とは違う考えを知ることができたりする。そのことは新たな発見を生み出す。自分だけでは見つけられない内容もあるため、人とアウトプットし合うのは良いことだ。
コンプライアンス教育は、社員だけではなく会社を守る上で力を入れる必要がある。専門的な内容が多く、難しく感じる社員もいるため、社員目線に立って伝えることが大事だ。これらのポイントを抑えることが、コンプライアンス教育の中身を充実させることになる。
1.社内のコンプライアンスについて説明しておく
2.コンプライアンス教育は全社員に行う
3.言葉をかみ砕きながら説明する
4.事例を用いて分かりやすく説明する
5.参加者同士でアウトプットさせる場を設ける
しかしポイントを抑えても、コンプライアンス教育を行うまでの手順を正しく踏まなければ、質の高い教育にするのは難しい。コンプライアンス教育の手順例は以下の通りだ。
ステップ① コンプライアンス教育のゴールを決める
ステップ② コンプライアンス教育のスケジュールを決める
ステップ③ コンプライアンス教育の内容を決める
ステップ④ 受講対象者を選定する
ステップ⑤ コンプライアンス教育を実施し、振り返りを行わせる
手順通りステップを踏んでいくことが、成功へのカギとなる。研修を行うにしても、事前準備をどれだけ充実させているかで終わった後の成果が変わる。
企業におけるコンプライアンス事情は、今後もますます重要視される。全従業員が健全に働ける職場にするためにも、コンプライアンス教育を意識していただければと思う。
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