企業の中には、出戻り社員の採用を積極的に行っているところもある。転職先でうまく働けなかったり、前職にもどりたくなった人にとっては良い制度だ。しかし出戻り社員の採用にはメリットがある一方で、デメリットもある。出戻り社員を採用したことが、裏目に出るケースもあるようだ。出戻り社員を採用するときは、いくつかのポイントが存在する。
そこで本記事では、出戻り社員のメリットやデメリットを説明しつつ、採用時のポイントや導入事例などを紹介していく。
出戻り社員とは、一度退職した企業で再び働く社員を指す。出戻りする理由は「転職したが、元の会社で働く方が合っていた」「働ける状態になった」など様々だ。
しかし出戻り社員を積極的に受け入れる企業もあれば、否定的な企業もある。そのため、出戻り社員に対する考え方は企業によって様々だと言える。
出戻り社員を採用するメリットは以下の通りだ。
出戻り社員は過去に社内で働いていたため、初めて入社した方と比べると、勘を取り戻すまでのスピードが早い。しかも業務に関して覚えている箇所が多いため、教育も効率よく進められる。そのため、即戦力となる可能性が高い。
出戻り社員は人材会社を通じてではなく、以前お世話になった社員や人事部など、企業へ直接伝えることが多い。人材会社を通じて採用するケースは少ない。人材会社へのマージンなどの費用を抑えられるため、低コストで採用できる。
退職後、他企業での勤務経験がある出戻り社員であれば、そこで習得したスキルを発揮してもらえる。したがって、社内で活躍できる可能性が高い。スキルを発揮できる出戻り社員がいれば、成果を挙げやすい環境をつくれる。そのため、チームの質を上げるのに役立つ。
再入社することに対して、後ろめたい気持ちを持っている方も多い。そのような方は、次は失敗できないと感じるため、自分の能力を最大限に発揮しようとする。負い目を感じている方が多いため、高いコミットメントを期待できる。
高いコミットメントを提示する出戻り社員がいれば、他の社員も負けずに頑張ろうとする。切磋琢磨し合う関係性ができて、職場の士気が高まるため、社内の活性化に役立つ。
出戻り社員の採用には、デメリットも存在するため紹介する。
出戻り社員として入社する場合、過去の実績や他社で得た経験が加味される。そのため、管理職など相応のポジションが用意されている場合も多い。
しかし出戻り社員に良いポジションを与えると、自社で働き続けるよりも一度退職した方が優遇されているように見える場合がある。すると既存社員は不公平感を感じ、出戻り社員や採用した会社に対して不満を持つ。
一度でも不満を持つと、出戻り社員の行動を細かく気にしだし、日が経つにつれて不満が溜まっていく。最終的に出戻り社員と既存社員の関係性がギスギスして、働きづらい職場になってしまう。
採用した出戻り社員の中には、過去にこだわる方もいる。そのタイプの出戻り社員は、会社の体制が変わっても、自分が働いてきた職場のことが忘れられない。過去の体験と比較し、悪い箇所ばかりに目がいき、会社への愚痴や文句が増える。
それがエスカレートすると、出戻り社員と既存社員の間で対立が起こり、職場の雰囲気が悪くなってしまう。最終的には会社の士気が下がり、チームワークの乱れにつながる。
転職について分かりやすくまとめられているサイト「タレントスクエア」では、出戻り転職とは?メリットや後悔する理由について、まとめられている。企業向けではなく出戻り社員『当人』の目線だが、合わせて参考にすると理解が深まるだろう。
辞めた会社に戻る出戻り転職とは?メリットや後悔する理由を解説
出戻り社員の採用は、いくつかのポイントを抑えておくと成功する。ここでは、採用時のポイントを紹介していく。
出戻り社員の再雇用制度を用意すれば社内で文句が出たり、出戻り社員が不満を持ったりするリスクを抑えられる。そのため、出戻り社員を再雇用してもトラブルが起こりづらい。ちなみに出戻り社員の再雇用制度を用意するときは、以下のことを意識すると良い。
出戻り社員の採用基準を明確にする理由は、自社に合わない出戻り社員を採用しないためだ。全ての出戻り社員が優秀だとは限らない。自社に適した人材のみを採用するためにも、採用基準は明確にすべきだ。採用基準を設けるときは、最低限以下の項目は入れた方がいい。
スキル・経験値は、自社の業務をうまくこなすか判断する上で重要だ。出戻り社員と言えども、スキル・経験を積んでいない方は、業務で成果を発揮できない。そのため自社が求めるスキルを持っていたり、場数を多く踏んだりしているか確認するといいだろう。
たとえば「退職から3年以内」といった形で、退職から出戻りまでの期間を定めるのも大切だ。理由はチームワークを乱さずに働ける出戻り社員を採用するためだ。
退職から出戻りまでの期間が長いと、在籍時と社内の雰囲気が変わりすぎて馴染めない恐れがある。すると、他の従業員が気を遣ってしまう。それが常態化すると、従業員たちは働きづらさを感じ、社内業務が回らなくなる。
いくら仕事ができる出戻り社員でも、職場の雰囲気や社員たちと上手くやれないと、仕事はスムーズに進まない。会社の雰囲気が悪くなり、チームの成果を挙げるのが難しくなる。したがって、職場とマッチするかも調べた方がいい。
出戻り社員を優遇しすぎる制度は、社員たちの不満を生み出す。そのため、優遇しすぎない制度にするのも大切だ。たとえば「〇〇のスキルがないと管理職に出世できない」「自社での勤務経験があっても、特別なスキルがない限り役職なしのスタート」というように条件を設ければ、既存社員の不満を抑えられる。結果、出戻り社員を採用した後も、問題が起こらずに済む。
出戻り社員の採用後に、待遇のことで会社と揉めるケースもある。解決までに長い期間を要する場合もあるため、入社前にハッキリさせた方がいい。ちなみに待遇面を話し合うときは、以下のことを明確にすると良い。
お金が絡むため、給与面は細かく決めた方がいい。
上記のように、給与面では確認すべき項目が色々とある。話を端折ると、出戻り社員と会社の間に金銭トラブルが生まれる原因になってしまう。それを防ぐためにも、出戻り社員が納得できるまで話し合った方がいい。
出戻り社員でも会社が求める要件を達成しないと、出世できないことも話し合った方がいい。たとえ自社での勤務経験があっても、スキルがない社員を出世させてはいけない。既存社員の中にも出世を目指す方はいる。出戻り社員と既存社員の間で、不公平感を生み出さない意味でも大事だ。
異動の有無についても確認した方がいい。なぜなら、異動を命じた瞬間、再度退職してしまう恐れがあるからだ。優秀な出戻り社員を採用したのに、異動が理由で辞められるのはもったいない。出戻り社員に働き続けてもらうためにも、異動の有無も話し合いの中で明確にすべきだ。
出戻り社員を採用するときは、社内の理解を得てから行った方が良い。管理職が独断と偏見で勝手に採用するのは、トラブルのもとだからだ。社内の理解を得るには、採用前に以下のことを伝えておくといい。
採用の理由が曖昧だと、既存社員は納得しない。そのため、採用の理由を明確に説明することが大事だ。たとえば「〇〇のスキルを持つ社員が現れたから採用した」「今までの応募者と比べて、〇〇が秀でていたから採用した」といった形だ。
明確に説明して、納得せざるを得ない内容であれば、既存社員は反対意見を言えない。その結果、社内に反対勢力が生まれづらくなり、理解を得やすくなる。
ベネフィットとは、行動によってもたらされる恩恵のことだ。出戻り社員の採用によって起こる既存社員へのベネフィットを伝えれば、納得感が生まれやすい。結果、理解を得るのが楽になる。
様々な企業で、出戻り社員の採用を行っている。最後に出戻り社員を受け入れている企業事例を紹介していく。
日立製作所では、キャリア採用を中心に出戻り社員の受け入れ態勢を整えている。他企業で培ったスキルを活かしたり、入社後に業務の勘を取り戻したりするのが早いため、戦力アップに役立つと考えているそうだ。
しかも自社のグループ企業である「日立ソリューションズ」では、元々正社員として働いていた方が登録できる「アルムナイネットワーク」と呼ばれるクラウドサービスを運用している。
このサービスに登録すると、登録者同士で学び合ったり、自社を退職しても会社とのつながりを持ったりできる。会社として退職者との関係性を大切にしているため、出戻り社員が戻りやすい環境だと言える。
三井物産でも、2012年から戦力となる経験者を集めるために、出戻り社員の受け入れを開始した。自社でも退職者を大切にしている文化がある。その象徴が、元社員達で集う同窓会だ。
同窓会の開催によって、会社と退職者のつながりを維持するのに役立っている。同窓会がきっかけで出戻り社員として働くケースもあるようだ。
富士通では「カムバック制度」と呼ばれる採用制度を設けて、退職者が復帰しやすい状態をつくっている。自社での正社員勤務が1年以上かつ退職から5年以内で、応募条件に提示されている理由で退職した方が応募できる。
書類選考や面接などはあるが、出戻り社員専用の採用フローとなっているため、再入社を希望する方には良い制度だ。
出戻り社員を採用する企業も、ちらほらと現れてきた。出戻り社員専用の採用制度を設けたり、退職者同士でつながったりできる同窓会やネットワークなどを構築したりしている企業もある。実際に出戻り社員を採用すると、以下のメリットが期待できる。
上記のように、企業にとって良いことが起こりやすくなる。そのため、チームとしての戦力を上げたり、自社の成長スピードを早めたりしたいときに役立つ。しかし、その一方でデメリットも存在する。
上記のデメリットを克服するには、その状況をつくり出さずに採用することが大事になる。ちなみに出戻り社員採用時のコツは、以下の通りだ。
上記のポイントを抑えれば、出戻り社員や既存社員から文句が出づらい。結果、士気の高い状態を維持しやすくなる。いくらスキルの高い出戻り社員を採用しても、職場の雰囲気が崩れてしまっては元も子もない。
出戻り社員に対して不満を持つ従業員が多いと働き心地は悪くなる。それは、出戻り社員の採用を反対する方を生み出すきっかけになる。職場の働きやすさを壊さないためにも、出戻り社員の採用は慎重に進めていただきたい。