社内マニュアルをつくっても、社員たちの業務に活きなければ意味がない。その状態を防ぐには、質の良いマニュアルをつくる必要がある。質の良いマニュアルは業務を手助けする資料として役立ち、社内で重宝される。しかし正しい流れを抑えなければ、質の良いマニュアルはつくれない。
本記事では、社内マニュアル作成の方法やコツを中心に解説する。
はじめに、社内マニュアル作成が必要な理由を紹介する。
社内マニュアルがない状態で社員教育を行うと、どのように進めていけば良いか分からなくなる恐れがある。しかし社内マニュアルを用いて社員教育をすれば、業務で必要なことが書いてあるため、何を教えるべきか分かる。
しかも社内マニュアルに沿って教育すれば、どの講師が教育しても最低限のスキルは習得させられる。社員たちのスキルの均一化が図れる点においても、社内マニュアルは必要だ。
社内マニュアルには、業務における手法が記録してある。そのため、別の部署から異動してきた社員でも業務の流れが分かる。上司が部下に指導する時間も削減できるため便利だ。
社内マニュアルには、業務に関するノウハウが詰まっている。社員たちが社内マニュアルの内容を参考にしながら業務に取り組めば、チーム内に共通の認識が生まれていく。その結果、社員間で意思疎通がしやすくなる。それが作業時間の短縮や業務の削減などを生み出し、業務改善に結びつく。
社内マニュアルには、正しい流れが存在する。ここでは5つのステップに沿って、社内マニュアル作成の流れやコツを紹介していく。
社内マニュアルの作成では、業務の現状を把握する所から始まる。現状を把握せずに社内マニュアルを作成すると、役に立たないものが出来上がってしまう。
その状態をつくらないためにも業務の現状を知り、どのような社内マニュアルが必要か考えなければならない。ちなみに業務の現状を知るときは、以下のことを確認していく。
部署内の業務内容をチェックするときは、一通り洗い出すと良い。なお洗い出すときは、以下のことを意識すると良いだろう。
業務内容を洗い出すときは、細かく洗い出すことが大切だ。大雑把に洗い出すと、何を行っているのか判断できなくなる。仮に営業職であれば「営業先への訪問、顧客に対する資料の作成、メーカーへの商品受注」といった形で、具体的な内容が分かるようにしていく。
時系列に沿って洗い出す理由は、漏れが発生しないようにするためだ。思い付いたものから洗い出すと、抜け漏れに気付かず業務内容の確認を終了してしまう恐れがある。その状態をつくらない意味で大事だ。
業務の中には、目的がなく惰性で行っているケースがある。そのような業務がないか確認するために、各業務の目的を確認していく。
業務に携わっている関係者も把握していく。携わっている社員の役職や人数を調べ、どのような体制で業務を遂行しているのか確認する。
業務の標準化とは、多くの社員が業務に携われるようにすることだ。1人しか対応できない業務の場合、担当者が休んでしまうと誰も対応できなくなる。その状態を解消するために、業務の標準化は行われる。なお標準化する作業を決めるときは、以下のことを意識すると良い。
標準化に向かない作業を選択すると、社員に無理が生じてしまい、社内の業務体制が崩れてしまう。その状態を起こさないためにも、標準化する作業の基準を設けた方が良い。
「どの社員でも実行できる」「業務の生産性が上がる」というように、基準を何個か設けておくことが大事だ。
各業務の優先順位を明確にすることも大切だ。優先順位をつけて高いものから標準化していけば、自然と優先順位が低い業務は後回しになっていく。どの作業から選べば良いか迷うことが減り、スピーディーに決めていける。
標準化する作業を決めたら、その中で起こっている問題点を見つけていく。これは社内マニュアルに、非効率的な内容を反映させないためだ。なお問題点を見つけるときは、以下の項目を確認すると良い。
業務フローの確認では、以下の観点で問題点がないかチェックしていく。
内容や順番など、様々な観点でチェックすることで問題点を見つけやすくなる。
惰性で行われている業務や、余計な時間を割いている業務がないか調べる。ただし「全て必要な業務」という前提で探すと、問題点を発見しづらい。よって「不要な業務が潜んでいる」という前提条件で調べることが重要だ。
無駄に頻度の高い業務があると、他の業務に時間を割けない。この状況が生まれると、業務をストップさせたり、機会損失を発生させたりしてしまう。会社にとって不利益な状態を解消するためにも、各業務が適切な頻度で行われているか調べた方が良い。
問題の改善方法を考えるときは、以下のことを意識すると良い。
業務の理想像を設定すれば、それを目掛けて改善方法を決められる。どのような基準で改善方法を考えるべきか定まりやすくなり、アイデアが出やすくなる。
実行計画表とは、その業務を実行するまでのプロセスが記載してあるスケジュール表のことだ。実行計画表があれば、中身を参考にしながら業務を進めていける。実行計画表では、以下の内容を決めると良い。
実行計画表を作成するときは、ゴールの設定から始まる。難易度が高すぎると、社員たちのやる気を削いでしまう恐れがあるため、頑張れば達成できる内容にした方が良い。
ゴールを達成するまでに、必要な作業を決めていく。作業内容を決めるポイントは、作業の範囲を明確にすることだ。
範囲を明確にしないと、不要な作業を盛り込む恐れがある。余計な作業を入れないためにも、作業範囲は決めた方がいい。
作業の担当者を決めるのも大切だ。理由は責任の所在をハッキリさせるためだ。担当者が分からないと、その作業で問題が起こったときに誰に聞けばいいか分からない。しかし担当者を決めれば質問先が分かるため、確認するまでの時間が短くて済む。よって、作業の効率化に役立つ。
期日を設けるのも大事だ。たとえば「〇〇の作業が終わって10日以内に行う」と決めておけば、時間に対しての意識が高まる。時間にルーズな社員も減るはずだ。
標準化した業務を社内マニュアルとして落とし込んでいく。ここでは、以下のことを意識すると良い。
長い文章だと、社内マニュアルの内容を理解したり読み終わったりするまでに時間がかかる。長文を読むことが苦手な社員もいるため、文章は短くした方が良い。
作業内容によっては、文章よりも図で表した方が分かりやすいケースもある。よって、図を用いることも大切だ。
社内マニュアルの中身が良くても、マニュアルのみで作業を進められなければ意味がない。よって社内マニュアルを作成した後は、その通りに作業を進められるか確認すべきだ。
なお確認作業のときにストップした箇所については、文言を入れ替えたり別の言葉に置き換えたりして解決できないか試す。その作業を繰り返し修正箇所がなくなって、初めて社内マニュアルの完成と言える。
社内マニュアル作成後に、行わなければいけない作業がある。最後に、マニュアル作成後に行う作業を紹介する。
社内マニュアルは、社員に見てもらわなければ意味がない。したがって、社内に浸透させることが大事だ。なおマニュアルを浸透させるには、以下のことを行うと良い。
社内マニュアルを作成して「棚に置いてあるから見てください」と言っても、必要だと感じなければ見ない。社員たちにマニュアルを閲覧させるには、共有できる仕組みをつくれるかがカギになる。
たとえばマニュアルをワードやPDFで共有できる仕組みをつくれば、社員達はパソコン上で確認できる。このように、手軽に共有できる状態を仕組み化することが大事だ。
マニュアルを閲覧しやすい環境をつくるのも、浸透させるポイントだ。「オンライン上で手軽に閲覧できる」、「検索ワードを入力すれば、欲しいマニュアルが抽出される」といった形で、使い勝手が良ければ、社員たちの評判が上がり浸透しやすくなる。
マニュアルが浸透しても、活用できていなかったらダメだ。ただの置物にしないためにも、有効活用できているか確認するのも忘れてはならない。部下の仕事ぶりをチェックしたり、面談で聞いたりすることで確認できる。
更新を放置すると、長期にわたり古い情報が載っていることになる。すると、時代にマッチしない仕事の仕方になってしまい、取り残されてしまう。時代の変化に対応するためにも、マニュアルの更新はすべきだ。なお更新では、以下のことを意識すると良い。
更新日を設けると、マニュアルの更新を放置せずに済む。「毎年〇月〇日更新」、「2年に1回」といった形で定める。社内マニュアルの内容によって、更新頻度を変えていくといいだろう。
ルールが変わったら、速やかに反映させることも大切だ。放置してしまうと、古いルールのまま作業を進めてしまい、社内に損失を与える恐れがある。新しいルールに則って業務を進めてもらうためにも、変更になった段階で変えるべきだ。
社内マニュアルを更新させるときは、現場の声を反映させることも重要だ。現場のことを考えずに更新すると、社員たちからブーイングを浴びる恐れがある。職場の士気が下がり、社員たちのモチベーションを削ぐことになるため、現場の声は聞きながら更新した方が良い。
業務を進める上で、今後もマニュアル作成が必要になってくる場面は多くある。
社員一人ひとりが「この業務、自分以外が行う場合にマニュアルが必要かもしれない」「流れを改善したからマニュアルを作ろう」と思うためには、マニュアルの作成方法などの研修実施が有用だ。
マニュアル作成研修や、ナレッジマネジメント研修などを受けさせることも良いだろう。
社内マニュアルは社員教育時の資料として使われたり、業務内容を見返したりするときに役立つ。様々な場面で重宝されるため作成した方が良い。
しかし作成方法を間違えると質の悪い社内マニュアルが出来上がってしまう。よって、正しい流れを知ってからつくることが大事だ。
上記の手順に沿って作業をすれば、質の高い社内マニュアルが完成する。中身が良ければ、業務の効率化を促してくれるだろう。
しかし社内マニュアルは、つくって終わりではない。社内マニュアルを効果的に運用するには、完成後も継続的に作業を行う必要がある。下記は作業の一例だ。
上記の内容を行うことで、社内マニュアルとしての効果を発揮しやすくなる。社内マニュアルが上手く使われれば、業務の生産性向上が期待できる。それを実現させるためにも、質の良い社内マニュアルをつくっていただきたいと思う