カスハラ対策義務化に対応する研修の進め方|準備から見直しまで

2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対策が事業主の義務になった。厚生労働省の指針では、方針の周知や相談体制の整備などの具体例として研修が挙げられている。

この記事では、事業主に求められる措置と研修で担える役割を整理する。そのうえで社内研修を進める5つの手順を紹介する。各手順の冒頭に「やること」をまとめているので、自社の進み具合に合わせて確認してほしい。

作成者
株式会社リスキル

東証グロース上場(291A)・研修実績 年間3,900社以上

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カスハラ対策義務化で研修はどう位置付けられるか

2025年6月に改正労働施策総合推進法が成立し、カスハラ対策に関する規定が2026年10月1日に施行された。事業主には、カスハラから従業員を守るための措置を講じることが義務付けられている。(参照:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」)

措置の具体的な内容は、カスタマーハラスメント防止指針(厚生労働省)に示されている。指針には措置ごとに、実施していると認められる具体例(以下「取組例」)が示されている。研修との関係は次のとおりだ。

指針で定められた措置 主な内容 研修との関係
方針の明確化と周知・啓発 従業員を守る方針と対処の内容を示し、周知する 周知のための研修・講習が取組例にある
相談体制の整備 相談窓口を定め、担当者が適切に対応できるようにする 窓口担当者への研修が取組例にある
事後の迅速かつ適切な対応 事実確認・被害を受けた従業員への配慮・再発防止を行う 再発防止のための研修の再実施が取組例にある
抑止のための措置 特に悪質なカスハラへの対処方針と体制を整える 研修は取組例にない。対処方針と対応体制の整備が必要
併せて講ずべき措置 プライバシーを守り、相談を理由とした不利益な取扱いをしない旨を定めて周知する プライバシー保護のための窓口担当者研修が取組例にある

義務付けられているのは措置を講じることであり、研修の実施自体が一律に義務付けられているわけではない。研修を実施するかどうかだけでなく、必要な措置が実際に機能する体制になっているかを確認することが重要だ。

なお指針には、義務とは別に「望ましい取組」も示されている。その中には接客や苦情対応の研修のほか、消費者の心理や障害特性への理解を深める研修も含まれる。

社内研修を進める5つの手順

5つの手順は、措置の整備状況の確認から研修後の見直しまでの流れになっている。

  1. 自社の対策状況を棚卸しする
  2. 対象者と受講の順番を決める
  3. 対象者ごとの研修内容を組み立てる
  4. 実施形式と講師を決める
  5. 研修後の周知・理解度確認・見直しを行う

手順1:自社の対策状況を棚卸しする

やること:研修で周知する方針や対応手順がそろっているかを、指針の措置に沿って確認する

研修前に確認したい社内の対策状況

  • カスハラに対する会社の方針が文書になっている
  • カスハラに当たる言動の例と対処の流れを定めている
  • 相談窓口と担当者が決まり、従業員に伝わっている
  • 事案が起きたときの事実確認と報告の手順がある
  • 暴力や脅迫など、特に悪質なケースへの対処方針がある
  • 相談者のプライバシーを守るルールがある
  • 相談を理由に不利益な取扱いをしない旨を定めている

チェックが付かない項目があれば、研修よりもルールの整備を優先する。たとえば相談窓口が決まらないまま研修を行っても、受講者はどこに相談すればよいかわからない。パワハラやセクハラの相談窓口がすでにあれば、その窓口でカスハラの相談も受けられるようにする方法もある。

対象者の検討や事例の収集は、ルール整備と並行して進められる。店頭・電話・メールやSNS・訪問先など、顧客との接点ごとにカスハラが起こりやすい場面を洗い出しておく。集めた場面は、研修の事例やロールプレイの題材になる。

手順2:対象者と受講の順番を決める

やること:全社員向けの共通研修を土台に、追加研修の対象者と受講の順番を決める

対象者 カスハラ対応で担う役割 時間の目安(例)
全社員(共通) 方針と相談窓口を知り、カスハラを一人で抱え込まない 30分〜1時間
顧客対応担当者(追加) 初期対応・記録・上司への報告を迷わず行う 1.5〜3時間
管理職・相談窓口担当者(追加) 引き継ぎ・事実確認・被害を受けた従業員への配慮を担う 1.5〜3時間

相談窓口担当者への研修は、指針の取組例にも含まれている。対象者が少ないため、全社研修とは別に少人数で実施するのが現実的だ。

研修の実施順序としては、管理職・相談窓口担当者を先にする方法もある。現場に窓口を周知する前に、相談を受ける側が対応手順やプライバシー保護のルールを確認しておけるためだ。ただし先に研修を受けるだけでなく、相談を受けた後の対応体制も整えておくことが重要である。

あわせて、パート・アルバイトなど顧客対応を担う人が対象から漏れていないかも確認する。

手順3:対象者ごとの研修内容を組み立てる

やること:指針の措置と対応させながら、対象者ごとの研修内容を決める

対象者ごとの主な研修内容

顧客対応担当者向けと管理職・相談窓口担当者向けの内容は、全社員向けの内容に追加して実施する。

対象者 主な研修内容 対応する指針の措置
全社員 会社の方針/カスハラの定義と具体例/相談窓口/相談しても不利益な取扱いを受けないこと 方針の明確化と周知・啓発/併せて講ずべき措置(不利益な取扱いをしない旨の周知)
顧客対応担当者 正当なクレームとの見極め/初期対応の言い回し/記録の残し方/上司へ引き継ぐ基準/悪質なケースが発生した際の報告・連携方法 方針の明確化と周知・啓発/抑止のための措置に関連する対応手順の周知
管理職・相談窓口担当者 相談の受け方/事実確認の進め方/被害を受けた従業員への配慮/プライバシー保護/再発防止策の検討 相談体制の整備/事後の迅速かつ適切な対応/併せて講ずべき措置(プライバシー保護)

顧客対応担当者には、手順1で集めた場面を使ったロールプレイが役立つ。たとえば「電話で同じ要求を1時間以上繰り返される」場面で、上司に引き継ぐタイミングを練習する。一度経験しておくと、現場で迷う時間を減らせる。

顧客の権利への配慮も伝える

研修が「顧客の要求を断る方法」だけにならないよう注意が必要だ。指針では、事業主は消費者の権利や障害のある人への合理的配慮に留意する必要があるとされている。

用語

合理的配慮とは

障害のある人から社会的な障壁を取り除くための対応を求める意思が示されたときに、事業者が行う必要な対応のことだ。事業者にとって過重な負担とならない範囲で行う。

障害のある人から合理的配慮を求められたこと自体を理由に、カスハラと判断することは適切ではない。具体的な言動がカスハラに当たるかは、要求の内容や伝え方などを踏まえて判断する。研修では、正当な要望とカスハラを区別する考え方も扱おう。

手順4:実施形式と講師を決める

やること:研修内容と対象者に合わせて、実施形式と講師を選ぶ

形式 向いている内容 主な対象
集合研修(対面) ロールプレイや事例を使った話し合い 顧客対応担当者・管理職・相談窓口担当者
オンライン研修(ライブ配信) 拠点が分かれる場合の講義やグループワーク 全社員・管理職・相談窓口担当者
eラーニング・動画 方針や相談窓口など、全員に同じ内容を伝える講義 全社員・新規入社者

形式は組み合わせて使える。たとえば全社員にはeラーニングで方針と窓口を伝え、顧客対応担当者と管理職には集合研修で練習の場を設ける。相談窓口担当者のように受講者が少ない場合は、自社だけで行う一社研修のほか社外の公開講座に参加する方法もある。

項目 社内講師 外部講師
強み 自社の方針や事例に沿って説明できる 専門的な知見やロールプレイの運営ノウハウを取り入れられる
注意点 準備の負担が大きく、説明の質にばらつきが出やすい 自社の方針やマニュアルを事前に共有する必要がある

外部に依頼する場合は、対応フローが自社のマニュアルと食い違わないよう事前のすり合わせが欠かせない。

手順5:研修後の周知・理解度確認・見直しを行う

やること:研修内容を周知し、理解度と運用状況を確かめて必要に応じて研修を更新する

研修内容をいつでも確認できるようにする

研修の要点・対応フロー・相談窓口の連絡先は、社内ポータルなどに掲載する。欠席者には、eラーニングや資料の配布で同じ内容を届ける。

理解度と運用状況を確認する

研修直後は、「この場面では誰に報告するか」のように自社の手順に沿った確認テストで理解度を確かめる。実施日・対象者・受講者・研修内容も記録しておくと、受講漏れを確認できる。

ただし、記録だけでは措置が機能しているかはわからない。従業員アンケートや相談窓口の利用状況もあわせて確認しよう。指針でも、措置の運用状況を把握して見直すことが望ましい取組とされている。把握の方法としては、アンケートや意見交換のほか衛生委員会の活用が例示されている。衛生委員会は、常時50人以上の労働者がいる事業場で設置が義務付けられている委員会だ。

研修を見直すタイミング

次のようなタイミングでは、研修内容の更新や再実施を検討する。更新しないままだと、研修で伝える内容と実際の運用が食い違ってしまう。

  • 方針や対応手順、相談窓口の運用が変わったとき
  • カスハラの事案が起きたとき(再発防止のための研修の再実施は、指針の取組例の一つだ)
  • 新入社員や異動者を受け入れるとき
  • 年1回など、あらかじめ決めた見直しの時期

まとめ

研修は独立した義務ではないが、カスハラ対策の措置を従業員に浸透させる重要な手段だ。研修担当者が押さえたいポイントは次の3つである。

1

措置を棚卸しする

研修で伝える方針や対応手順がそろっているかを先に確認する

2

役割ごとに組み立てる

全社員の共通研修に、顧客対応担当者や管理職・相談窓口担当者向けの追加研修を組み合わせる

3

実施後に見直す

理解度と運用状況を確認し、方針の変更や事案に合わせて更新する

まずは手順1の棚卸しから始めよう。

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