近頃、カスハラ(カスタマーハラスメント)研修を実施する企業が増えている。きっかけの一つが、2026年10月に始まったカスハラ対策の義務化だ。ただ、いざ研修を選ぼうとすると、現場スタッフ向けや管理職向けなど種類が多く、どれが自社に合うのか迷う担当者もいるだろう。自社の課題に合わない研修を選ぶと、受講しても現場の対応が変わらないことがある。
そこでこの記事では、カスハラ研修を「誰が受けるか」と「何を扱うか」で5つのパターンに整理した。状況ごとのおすすめとそれぞれのカリキュラム例を紹介する。
目次
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カスハラ研修を選ぶときは、「誰が受けるか」と「何を扱うか」の2つの軸で整理すると迷いにくくなる。
1つ目の軸は、受講する対象者だ。現場スタッフはお客様と直接接し、管理職・店長は報告を受けて判断する。取引先と接する社員は、取引先とのやり取りを担う。このように、立場によって求められる役割は異なる。
2つ目の軸は、研修で扱う内容だ。同じカスハラ研修でも、カスハラを見極めて初期対応する方法を身に付けるもの、正当なクレームへの対応まで含めるもの、報告を受けた後の判断や部下のフォローを扱うものなど、範囲はさまざまである。自社の社員が取引先に対して加害者にならないための予防を扱う研修もある。
実際の研修をこの2つの軸で整理すると、主に5つのパターンに分けられる。状況ごとに合うパターンを、次の早見表にまとめた。
| 誰が受けるか | 何を扱うか | 状況例 | 合う研修パターン |
|---|---|---|---|
| 現場スタッフ | カスハラの見極めと初期対応 | スタッフによってカスハラへの対応がばらばら | パターン1:カスハラ対応研修 |
| 現場スタッフ | 正当なクレームへの対応とカスハラ対応 | 正当なクレームまでカスハラとして退けてしまうおそれがある | パターン2:クレーム&カスハラ対応研修 |
| 管理職・店長 | 引き継ぎ後の判断・部下のフォロー・予防策 | 報告を受けた上司が判断できず対応が止まりがち | パターン3:管理職・店長向け研修 |
| 取引先と接する社員 | 取引先からの不当な要求への対応 | 契約外の作業や時間外の対応を求められる | パターン4:BtoB向けカスハラ対策研修 |
| 取引先と接する社員 | 自社が加害者になることの防止 | 自社の発注や依頼がカスハラと受け取られるおそれがある | パターン5:カスハラ防止研修 |
研修の目的がまだ定まっていない場合は、先にカスハラ研修の目的と目標の決め方を確認しておこう。目的が決まると、パターンも選びやすくなる。カスハラの定義や具体例を確認したい場合は、次の記事を参考にしてほしい。
店頭や電話でお客様と接する職場では、カスハラへの対応が個人の経験や性格に任されがちだ。ある人は要求に応じ、別の人は断るという状態では、お客様の不信感を招きかねない。スタッフ自身も「自分の対応は正しかったのか」と悩みを抱えやすくなる。
このパターンの研修では、まずカスハラかどうかを判断する基準を確認する。そのうえで、部分謝罪・状況把握・上司への報告という初期対応の流れと、無理な要求への対応方法を身に付ける。お客様からのセクハラへの対処も扱う点が特徴だ。スタッフごとの対応のばらつきを減らしたい職場では、このパターンが候補になる。
研修例として、カスタマーハラスメント対応研修のカリキュラムを紹介する。
| 章 | 学習テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1 | カスタマーハラスメントの基礎理解 | 自社の現状や課題を共有するワーク / カスハラの被害状況と企業が対策に取り組む理由 |
| 2 | カスタマーハラスメントの判断基準 | 「要求の内容」と「伝え方」の両面からカスハラかどうかを見分ける方法 / 対応すべきクレームとの違いを考えるワーク |
| 3 | カスタマーハラスメントへの対応方法 | 部分謝罪→状況把握→上司への報告という初期対応の流れ / 線引きをはっきり伝える・対応者や場所を変えるといった無理な要求への対処法 / お客様からのセクハラをかわす伝え方 |
カスハラ対策を進める中で、現場が「強く言われたらカスハラ」と受け止め、十分に話を聞かないまま対応してしまうケースがある。実際、カスハラ研修の問い合わせを受けた企業から話を聞くと、クレームへの初期対応がうまくできず、お客様の怒りを強めているケースが多い。正当なクレームも、対応を誤ればカスハラのような状況に発展することがある。カスハラへの備えと同時に、クレーム対応の基本を押さえておくことが大切だ。
このパターンの研修では、クレーム対応の基本とカスハラ対応を両方とも身に付ける。まず、お詫び・傾聴・事実確認・解決案の提示というクレーム対応の手順を押さえる。そのうえで、カスハラと判断した後の組織的な対応に進む。対応者自身の心を守るセルフケアも含まれる。
パターン1とパターン2はどちらも現場スタッフ向けで、クレームとカスハラの違いはどちらの研修でも取り上げる。異なるのは、正当なクレームへの対応手順まで扱うかどうかだ。
| 項目 | パターン1:カスハラ対応研修 | パターン2:クレーム&カスハラ対応研修 |
|---|---|---|
| 扱う範囲 | カスハラへの対応に絞る | 正当なクレームへの対応まで含む |
| 特徴的な内容 | 無理な要求への対処法 / お客様からのセクハラへの対応 | クレーム対応の基本の流れ / 記録の残し方 / セルフケア |
| 向いている職場 | カスハラへの対応が人によってばらつく職場 | 正当なクレームまで退けてしまうおそれがある職場 |
クレーム&カスハラ対応研修は、次の3章で構成されている。
| 章 | 学習テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1 | クレーム・カスハラの基礎理解 | 正当なクレームとカスハラを分ける基準 / 対応の途中でクレームがカスハラに変わるケースの見極め / 「クレームかカスハラか」を判断するケースワーク |
| 2 | クレーム対応 | お詫び→話を聴く→事実確認→解決案の提示という対応の流れ / 意見と事実を分けて聞き取るコツ / 解決案を伝えるときに避けたい言葉 |
| 3 | カスハラ対応 | カスハラと判断した後に上司へ報告するタイミング / 後から確認できる記録の残し方 / 一人で抱え込まないためのセルフケア |
現場スタッフが初期対応を身に付けても、報告を受けた上司が判断できなければ対応は止まってしまう。「もう少し様子を見て」と部下に任せたままにすると、部下は一人で対応を続けることになる。
管理職・店長向けの研修では、初期対応者から状況を引き継いだ後の二次対応を扱う。二次対応とは、上司が事実確認を行い、判断したうえでお客様に回答するまでの対応を指す。
もう一つの特徴が、対応後の部下へのアフターフォローだ。研修の相談を受ける中では、カスハラ対応をきっかけにメンタル不調になった社員がいるという話を耳にすることもある。こうした事態に備え、研修では対応直後だけでなく中長期的なフォローの方法も確認する。
さらに、自社・自店舗でできる予防策をワークで考える。研修で出た予防策は、職場のルールづくりにも生かせる。
管理職・店長向け カスタマーハラスメント対策研修の内容は次のとおりだ。
| 章 | 学習テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1 | カスタマーハラスメントの基礎理解 | カスハラが従業員・企業・他のお客様に与える影響 / 部下を守るために管理職・店長が担う役割 |
| 2 | カスタマーハラスメントの定義と判断基準 | カスハラの定義と見分け方の再確認 / 自社・自店舗でカスハラが起きやすい場面を洗い出すワーク |
| 3 | カスタマーハラスメントへの対応方法 | 部下から引き継いだ後の事実確認・判断・回答の進め方 / 対応した部下を対応直後と中長期の両面でフォローする方法 |
| 4 | カスタマーハラスメントを防ぐために | 「できること・できないこと」の明確化や記録方法の統一といった予防策 / 自社・自店舗でできる予防策を考えるワーク |
カスハラは、個人のお客様との間だけで起こるものではない。取引先から契約外の作業を無償で求められたり、深夜や休日の対応を当然のように要求されたりするケースもある。取引関係を気にして断れず、担当者が抱え込んでしまうことも考えられる。
BtoB向けの研修では、こうした取引先特有のカスハラの類型を整理し、正当な要求との境界線を演習で見極める。契約書で業務範囲を明確にしておく予防策も扱う。また、自社が受注側となる取引が取適法の対象であれば、同法が自社を守る根拠になる。研修では、その基本も確認する。
取適法とは
下請法(下請代金支払遅延等防止法)を改正し、2026年1月1日に施行された法律の通称だ。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」である。中小受託取引適正化法とも呼ばれる。発注する側の事業者に対して、取引条件を明示する義務や代金の不当な減額・買いたたきなどの禁止事項を定めている。
研修では、トラブルが起きたときの初期対応として、傾聴に加えてアサーティブコミュニケーションを身に付ける。アサーティブコミュニケーションとは、相手を尊重しながら自分の考えを率直に伝える方法だ。この研修は、営業やカスタマーサポートなど、取引先と継続的にやり取りする部署に向いている。
BtoB向けカスタマーハラスメント対策研修は、6つの章で構成されている。
| 章 | 学習テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1 | カスタマーハラスメントとは何か | 契約外作業の強要・時間外対応の強要・金銭的な圧迫というBtoBで起こりやすい3つの型 / 正当な要求との境目を判定する演習 |
| 2 | 取適法の基本知識と活用方法 | 取適法の対象になる取引の見分け方 / 発注側に課される義務と禁止事項 / 違反が疑われるときの記録と証拠の残し方 |
| 3 | 契約書の活用と予防策 | 業務範囲や時間外対応を契約書で明確にする条項の書き方 / 契約書チェックリストの作成ワーク |
| 4 | カスハラの初期対応とコミュニケーション術 | 初期対応の5段階の流れ / 相手を尊重しながら自社の考えを伝える話し方 / 感情的な対立を深めないための工夫 |
| 5 | 社内体制の構築と組織的対応 | 担当者一人に任せない社内体制のつくり方 / 事例を共有・蓄積するルール / 対応した社員のメンタルヘルス対策 |
| 6 | 総合ケーススタディ | 実際の場面を想定した総合演習 / 研修の振り返り |
カスハラ対策は「受ける側」への備えに目が向きがちだが、自社の社員が取引先に対して加害者になる可能性もある。特に注意したいのは、発注する側とされる側のように上下関係が生まれやすい取引だ。こうした場面では、無理な納期や契約範囲外の依頼を、悪気なく行ってしまうことがある。
このパターンの研修は、取引先と接するすべての社員が対象だ。なかでも発注を担う社員には、優先して受けてほしい内容である。研修では、カスハラの判断基準と取適法に触れる行為を確認する。代金の不当な減額や不当な返品、買いたたきなどの違反事例をもとに、自社でできる防止策をワークで考える。
BtoB取引では、同じ社員が「取引先から要求を受ける側」と「取引先に依頼する側」の両方の立場になり得る。BtoB向けカスハラ対策研修とカスハラ防止研修をあわせて検討すると、双方向のリスクに備えやすくなる。
カスタマーハラスメント防止研修 半日編では、2つの章を通して判断基準から防止策までを確認する。
| 章 | 学習テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1 | カスタマーハラスメントの基本理解 | 自分の過去の言動を振り返るワーク / 取引先への言動もカスハラになり得ること / 正当な交渉とカスハラの違い |
| 2 | カスハラと捉えられる行為を防止するために | 「要求の内容」と「伝え方」から見たカスハラの判断基準 / 取適法で禁止されている不当な減額・返品・買いたたきなどの違反事例 / カスハラと受け取られないために自社でできることを考えるワーク |
業種によっては、カスハラと同じような問題が別の名称で呼ばれている。一般的なカスハラ研修のほかに、業種特有の相手や場面に合わせた研修を選ぶ方法もある。
保護者からの過度な要求や攻撃的な言動に備える研修だ。正当な要望との線引きや受け入れられない要求の断り方に加え、記録や情報共有など組織で対応する仕組みも扱う。担任が一人で抱え込みがちな学校では、学校向け ペアレントハラスメント対応研修も選択肢になる。
患者やその家族からの暴言・暴力、執拗な要求などに備える研修だ。身の安全を優先した発生時の対応や、対応を打ち切る判断の基準、被害後のケアまでを扱う。職員の安全を守る体制を整えたい医療機関では、ペイシェントハラスメント研修を検討するとよいだろう。
カスハラ研修は、「誰が受けるか」と「何を扱うか」の2つの軸で選ぶと、自社の課題に合うものを見つけやすくなる。
現場の初期対応をそろえたい場合は、「カスハラ対応研修」が候補だ。正当なクレームへの対応もあわせて強化したいなら、「クレーム&カスハラ対応研修」が向いている。報告後の判断や予防策を担う管理職・店長には、「管理職・店長向け研修」が合う。
取引先との関係では、不当な要求への備えとして「BtoB向けカスハラ対策研修」を検討しよう。自社が加害者になるのを防ぎたい場合は、「カスハラ防止研修」が役立つ。
まずは自社でどのような場面のカスハラが起きているかを整理し、記事前半の早見表と照らし合わせてみてほしい。受講の順番や実施形式の決め方は、次の記事で紹介している。
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